有史以来、人類は直立する熊と共存してきた。
世界中にいる熊に対して、どのような関係を築いてきたか。
その興味が尽きない歴史をこの本はたどっている。
どこの国においても、熊は親しみと畏怖としての存在である。
いずれの文化圏においても、熊の意味するところは、似通っている。
日本においても、毎年のように熊による被害がある。
熊に襲われて、命を失う事件も発生している。
人間にとって敵でもある熊。
にも関わらず、くまモン、くまのプーさん、テディベア等々、
愛されキャラとしての地位を確立している。
世界の民族では、人間と熊は特別な関係にある。
アイヌ民族を始め、先住民と呼ばれる民族にとって、
熊は神聖な存在としての位置づけにある。
スイスの化学作家ペーター・シャイトリンは、
熊は最も非凡な動物と考えていて、
非常に賢くて性格もよく、追ってから逃げるためには、
森や山の中で長く迂回するルートを辿らなければならないことを承知していて、
方向感覚に優れているために道に迷う事はないという。
母熊の愛情は深く、狩猟能力、食べ物の好みなど、
いずれも人間との類似性を見つけることが出来ると言っている。
また、死んだものに触れることは基本的にありえず、
無邪気な生き物を傷つけることもないと言っている。
ある時、イチゴを摘んでいた少女に近づいていって、
籠の中のイチゴだけ食べ、そのままどこかへ行ってしまったという話が紹介されている。
一方、北アメリカを中心に生存しているグリズリー(ヒグマの一種)は、
比較的凶暴で開拓に伴ってかなり殺され、絶滅危惧に指定されているそうだ。
熊は愛すべき存在であったが、グリズリーは人間の血に飢えていて、
人間を避けるどころか襲いかかってこないことの方が珍しく、
人間を狩る意思を持っているようにさえ思えると言われている。
北海道に住むヒグマとはまったく違った印象である。
知床に住むヒグマは、人間慣れしているような印象を受けるが、
道路に出てきたヒグマに対して、車を停めて写真を撮る様子や、
さらに車から降りて写真を撮る様子がテレビで放映される。
危ないと言うが、人間がヒグマを危険にさらしているように感じる。
せっかく自然保護に努めている知床半島である。
観光資源としても大事だが、本当に大切なものはなにかをよく知って、
知床を大切に守っていけるよう、人間側の配慮と愛情が必要だと感じる。