35.好熱菌に学ぶ生命科学 Ⅱ



「私たち生物にとって、最も重要なものは何か」



この問いの答えの一つとして、必ず挙げられるのはDNAだと思います。



そして、それほど重要なDNAだからこそ、どんな環境であれ最優先で守る必要があるのです。



では、以前に引き続き高熱の環境では、どのようにしてDNAを守るのでしょうか。



これについては、まず初めに少しDNAの構造について触れ、そこから順を追って説明をしていきます。



そもそも、みなさんはDNAが何の略かご存知ですか?



中学で習った生物の知識が頭に残っていれば、デオキシリボ核酸という名前を聞いたことがあるかもしれません。



これは、塩基リン酸という3つのパーツからできた化合物で、それがいくつも鎖状に連なり、らせんを巻くことで、有名な二重らせん構造を形成しているのです。



画像引用元;受験のミカタ
https://juken-mikata.net/how-to/biology/dna.html


また、二重らせん構造を構成する2本の鎖は、G-CA-Tのどちらかの塩基対によって繋がっています。



しかし、これらの塩基対はG-Cなら3本の水素結合、A-Tなら2本の水素結合という風に、間を繋ぐ結合の数が異なっているのです。



画像引用元;NS遺伝子研究室


つまり、塩基のペアによって、熱への安定性が違うわけです。



A-Tのペアなら、2本の水素結合しかなく、比較的低い温度で切れてしまいますが、G-Cのペアなら、3本の水素結合があるので、少し高い温度でも耐えられるんですね。



そうすると、高熱の環境に暮らす生物は、この熱に強いG-Cの塩基対を多くDNAに含んでいるのかと予想できます。



ただ、事はそう簡単ではないようです。



というのも、熱に強い生物のDNAだからといって、それほど顕著にG-C塩基対を多く含んでいるわけではないと分かったからです。



そうすると、好熱性微生物がDNAを熱から守っている仕組みがますます謎になって来ました。



36.鍵となるのは「ねじれ」



G-C塩基対の含有量が、高熱環境への適応にそれほど寄与していないとなれば、何がDNAを熱から守っているのでしょうか。



これについて、鍵を握っているのは、実はDNAの「ねじれ」なのです。



「ねじれ」だけでは分かりにくいので、より専門的に言うと、「超らせん」と呼ばれるものが重要な役割を担っています。



「超らせん」には、2つの状態があり、それぞれ「正の超らせん」と「負の超らせん」です。




「正の超らせん」では、DNAに余分ならせんが導入され、それによって、熱への安定性が高くなることが分かっています。



一方で、「負の超らせん」の場合は、らせんを巻き戻して、その数を減らしたもののことですね。



このように、DNAのらせんの数を増やすことによって、高熱に対処して来たわけです。