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みなさんこんにちは、健太です。

今回は、「深海のオアシスである鯨の骨」についてお話していきます。

また、この記事は次の論文の(個人的な)解説も兼ねているので、ぜひ合わせて読んでみて下さい。




今回ご紹介する論文

「鯨骨生物群集の形成とその特殊性」

(窪川 かおる,藤原 義弘,宮崎 征行.化学と生物.2007,Vol.45,No.6,p439-443)


論文URL→https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/45/6/45_6_439/_pdf/-char/ja




[深海オアシスの謎に迫る part1]目次

1.深海の食料事情


2.化学合成という突破口

 -用語解説


3.鯨骨生物群集



1.深海の食料事情



深海は、太陽の光が届かず、水温も低く、水圧の高い極限の世界です。



そして、そんな深海にはもう一つ、食料が少ないという大きな問題があります。



その問題の原因となっているのが太陽で、太陽のない深海には、光合成をして生きる植物や植物プランクトンがいません。



ただ、そんな深海にも生物が暮らしているわけですが、植物(プランクトン)のない世界で、何を餌に生きているのでしょうか?


その答えの一つとなるのがマリンスノーで、マリンスノーとはいわば、深海生物にとっての恵みのおこぼれ。


正体が生物の遺骸や排泄物、食べカスであるマリンスノーですが、餌の少ない深海にとっては、大きな食料の供給源なのです。


しかし、深海に供給されるマリンスノーの量は、海の表層で作られた光合成産物の約1%ほど。


これでは食料源として少な過ぎます。


では深海生物たちは、この問題をいかにして乗り越えているのでしょうか?


2.化学合成という突破口



海の底に降り積もるマリンスノーでは生きていけないなら、いっそのこと、自分で栄養を作ってしまうというやり方があります。


それが、化学合成という方法です。


化学合成とは、無機物を酸化した際に生じるエネルギーを使って、有機物を作り出すこと


この方法で生きる生物が初めて発見されたのは、1977年、ガラパゴス諸島沖での出来事でした。


熱水噴出孔の周囲に群がる生物群集が見つかったのです。

熱水噴出孔の生物たち

画像引用元;ナショナルジオグラフィック

その生物群集の生物たちは、自分の体内に細菌を共生させ、その共生細菌たちが化学合成を行い、有機物(栄養)を作り出していました。


そして、共生細菌の作った有機栄養の一部を分けてもらい、その生物群集は生き延びて来たわけです。


このような、熱水噴出孔における化学合成生物群集の発見の後、メタン湧水帯鯨骨の周囲でも同じような生物群集が発見されました。


この記事では、鯨骨の周囲に形成された化学合成生物群集に焦点を当ててお話します。


用語解説


1.生物群集

一定の区域に存在する生物個体群をまとめて考えたもの。

2.メタン湧水帯

メタンに富んだ湧水が存在する海底の領域。


3.鯨骨生物群集



鯨骨とは、その名の通り鯨の骨のことですが、この骨は元々、寿命を迎えた鯨が重力によって海底へと降って来たものです。



そして、記事の冒頭でもお話したように、深海とは餌が枯渇した場所。



そんな場所では、鯨の遺骸というのはご馳走なわけです。



お腹を空かせた深海の生物たちが、ご馳走を求めて鯨の遺骸へと群がって来ます。


鯨の遺骸に群がる生物たち


画像引用元;ニューズウィーク

https://www.newsweekjapan.jp/amp/stories/world/2019/10/3200.php



こうして、様々な種の生物たちが集まることで、生物群集が形成されていくのは当然のことでしょう。



このような鯨の骨に集まる個体群は、まとめて鯨骨生物群集と呼ばれています。





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