弱肉強食から共生へ
【共生は私たちに何をもたらしたか?】




私たちの体は何十兆個もの細胞からできています。

細胞どうしはお互いにくっつき、さまざまな働きをもった器官や組織となります。

細胞のなかにも、人の体のようにさまざまな働きをもった臓器があり、

その臓器のことを細胞小器官と呼びます。

例えば、リボソームタンパク質をつくり、ゴルジ体タンパク質の加工を行います。

ミトコンドリア酸素を使って、細胞内でエネルギーを生み出します。

そのエネルギーを使って、私たちは活動しているのです。

そして、それぞれの細胞には、細胞核のなかにDNAがあり、遺伝情報を保持しています。

しかし、私たちの細胞には、これ以外にもDNAがあります

1963年に、スウェーデンの物理学者であるマーギット・ナスミトコンドリアのなかにもDNAがあることを発見しました。

しかも、このDNAは、私たちの細胞核がもつDNAとは異なるものなんです。

そして、同じようなDNAは、同じく1963年にコロンビア大学の石田正弘博士によって、葉緑体のなかで発見されました。

葉緑体とは、植物が光合成の際に用いる小器官です。

しかし、なぜミトコンドリアや葉緑体は独自のDNAをもっているのでしょうか?

これについて、1967年、アメリカの生物学者、リン・マーギュラス

ミトコンドリアや葉緑体はもともと独立した生物であったが、それらが細胞のなかに取り込まれたのではないか、と考えました。

細胞内共生説です。

どのようにしてミトコンドリアや葉緑体は細胞小器官になったのでしょうか?




〜弱肉強食から共生へ〜


自然界は弱肉強食です。

強い者が弱い者を食べる

弱肉強食はいつから始まったのでしょうか?

白亜紀やジュラ紀に地上を支配していた恐竜には、肉食恐竜が草食恐竜を食べるという弱肉強食がすでにありました。

さらに時計の針を戻して、生物が陸上に進出する前の海のなかでも、弱肉強食はすでにあったのです。

そして、ずっと遡っていくと、弱肉強食の起源は、まだ生命が単細胞生物だった時代まで遡ります。

単細胞生物だった頃から、大きい単細胞生物が、自分よりも小さい単細胞生物を細胞内に取り込み、消化していました。

しかし、何という偶然でしょう。

細胞内に取り込まれた単細胞生物は、消化されることなく、その細胞内で暮らすことになったのです。

このようにして、ミトコンドリアや葉緑体の祖先は、餌として単細胞生物に取り込まれたのではないかと考えられています。

そして、取り込まれた細胞のなかで、ミトコンドリアの祖先の生物は、エネルギーを生み出し、

葉緑体の祖先の生物は、光合成を行いました。

これによって、ミトコンドリアや葉緑体の祖先の生物を取り込んだ単細胞生物は、普段より多くのエネルギーを獲得することができました。

また、ミトコンドリアや葉緑体の祖先も、他の単細胞生物のなかで暮らすことで、外敵から身を守ることができます。

お互いにWIN-WINの関係ですね。

このようにして、ミトコンドリアや葉緑体の祖先の生物との共同生活が始まったのです。

それが私たちの細胞にも受け継がれたことで、ミトコンドリアは独自のDNAをもっているのです。



《参考文献》
敗者の生命史38億年
著者:稲垣 栄洋
出版社:PHP