海の中をゆっくりと下に向かって進んでいく。

さっきまで聞こえていた、浜辺で遊んでいた人々の声や、サイレンの音、車のクラクションが聞こえなくなる。

ライトブルーの神秘的な光に包まれた色が、少しづつその色を失っていく。

その代わりに、夕暮れの一番星がぼんやりと輝いているのが見える。

いや、あれは一番星でない。

発光生物が発する弱い光だ。

さらに深く潜れば、その薄暗さは徐々に黒に変わっていく。

そして、永遠に光が届くことのない、漆黒の世界に突入する。




深海へようこそ。









真っ黒な深海で何が聞こえるか?

僕たちは、深海という言葉をよく口にしますが、海の中のどこからが深海になるのでしょうか?

厳密な定義があるわけではありませんが、

水深200m以深のことを深海と呼ぶことが多いようです。

水深200mというとかなりの深さです。

みなさんが学生だったときのことを思い出してみて下さい。

学校の体育の授業や、友達と遊びに行ったときなどに、プールに行ったことがあると思います。

そして、鼻をつまんで、プールの中に潜れば、さっきまで聞こえていた、他の生徒の声や先生の声がまったく聞こえなくなり、

聞こえるのは、自分の吐く息のボコボコ音ぐらい。

それでも、水深はせいぜい1m〜2mの間だと思います。

これぐらいの深さでも、僕たちはほとんど何も聞こえなくなるのです。

深海というと、これよりもさらに下の世界ですから、

当然、音なんて何も聞こえないはず。








と僕は思っていました。

しかし、そうではないようです。

というのも、深海には、海の音が集まってくる場所があるのです。

その場所の音を聞くことができます。

アメリカ海洋大気局のホームページで、実際に海の中にマイクを入れて、録音した音を聞くことができるので、ぜひ一度聞いてみて下さい。
http://www.oceanexplorer.noaa。gov / explorations / sound01 / background / seasounds / seasounds.html

そして、その場所にだけ音が集まり、遠くまで響き渡っていきます

また、深海で響き渡る音は、低音域の音になります。

それは、音を発しても、その周りにある水が高音域の速い振動を吸収してしまうので、高音が存在することができないからです。

なので、深海でどれだけ高い声を出しても、その音が水の中を進んでいくうちに、

その音は、くぐもり、かすれ、野太く、艶のない声へと変化したいきます。

そして、これらの音は、ある場所に集まり、音の一団となって響いてきます。

それは、真っ黒な奈落の底から湧き上がる、低いうなり声のような音です。



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→2020年10月10日 16時に更新

参考文献
深海の科学
著者:瀧澤 美奈子
出版社:ベレ出版