今回は久々に鉄道ネタをやっていきます。先日、大井川鐵道の大井川本線に乗りました。


静岡県を走る大井川鐵道には昭和時代に製造された様々な種類の古い車両が在籍しています。僕は特段鉄道が好きという訳ではありませんが、昭和初期の雰囲気を色濃く残す大井川鐵道には興味を持っていました。


東京駅からは新幹線と東海道本線を乗り継いで大井川鐵道の始発駅、金谷駅へと向かいました。東京駅から静岡駅までの新幹線は自由席に乗車したのですが、思いの外空いており、貸切に近い状態でした。東海道新幹線は700系が撤退し、N700系に統一されて久しいですが、これらもゆくゆくは新型のN700sに置き換えられていくのでしょうか?新幹線の置き換えは本当に早いですね。


静岡駅から金谷駅間は東海道本線に乗り継ぎました。僕が乗車した車両は今では東京周辺で見掛ける機会が殆ど無くなった国鉄型車両の211系でした。この車両は車内の銘板を見ると国鉄民営化後の昭和63(1988)年に製造された後期型の車両だったため、厳密には国鉄時代に製造された車両ではありませんでしたが、それでも昔懐かしい気分に浸る事が出来ました。


この日は金谷駅の一つ隣の新金谷駅から大井川鐵道の客車列車の急行かわね路号に乗車しました。新金谷駅までは大井川本線の普通列車に一区間のみ乗車して向かいました。急行かわね路号は座席指定の急行列車で、毎日ではないものの、土日祝日を中心にほぼ毎日運転されています。乗車するためには乗車券のほかに、急行券(500円)を購入する必要があります。


この列車で主に使用されている客車は旧型客車と総称され、戦前から戦後にかけて国鉄(現在のJR)が大量に製造した客車群です。現在もJR東日本には保存用として数両が在籍していますが、大井川鐵道に在籍している車両は18両という圧倒的な数を誇っています。なお、一部の車両は某人面機関車列車に使用するためにオレンジ色に塗り替えられています。これらの旧型客車には冷房装置は付いておらず、扇風機しか無いため、夏場は灼熱地獄と化しそうです(笑)。


また、内装は木が多く使われており、殆どの車両の窓枠や壁、床は木で出来ています。板張りの床をもつ車両は現在では本当に少なく、関東近辺では現役で日常的に見られるのは他に江ノ電の旧型車両くらいではないでしょうか。


江ノ電の最古参車両の300型。現在は1960年製の305-355編成のみ在籍しています。この編成は江ノ電の中では最も人気の車両となっており、ポスターなどで見た事があるという方も多いのではないでしょうか。後年に冷房装置の設置や台車、モーターの交換などといった大規模な改造が行われていますが、車内の床は今では珍しい板張りのままとなっており、昭和の雰囲気を色濃く残す貴重な車両です。既に還暦を迎えた古い車両ですが、2021年に大規模な検査が行われ、車体も綺麗に塗り直されているため当分は引退せずに走り続けることでしょう。因みに、写真はかなり前に撮影したもので、慌てて撮ったので構図がぐちゃぐちゃです。


大井川鐵道の旧型客車で何よりもびっくりしたのが、出入口のドアが手動式の開き戸という点です。乗客は乗車時、降車時に自分でドアを開き、それが終わると自分で閉めます。特にロックなども無いため、走行中も一応開ける事は可能ですが、安全面から流石にそれは禁止されていました。因みに、これらの旧型客車が全国の国鉄で全盛期だった頃は乗降用扉が開いたまま運転されている事もしばしばあったようです。


急行かわね路号は本来、蒸気機関車の牽引でほぼ毎日運転されるのですが、現在動ける状態にある車両が1台しかなく、それも某人面機関車トー◯ス仕様に改造されているため、代わりに電気機関車の牽引でした。


今回、急行かわね路号にはこの列車の始発駅、新金谷駅から大井川本線終点の千頭駅まで乗車しました。この日の急行列車に充当された車両は以下の通りです。


千頭駅にて撮影。この写真はこれまた昔懐かしいフィルムカメラのNikon F3で撮影しました。


この日充当された編成は先頭から

・E34

・オハ35 149

・オハ35 559

・オハフ33 469

という構成でした。


先頭に立つE34は西武鉄道で使用されていた電気機関車です。この車両は大井川鐵道では最も新しく、車体は昭和61(1986)年に製造されました。なお、台車やモーター等は旧型電車のものを流用しているためそれらに関しては車体よりも古いものが使われています。


クリーム色と赤色の塗装が施された車両が元西武鉄道の電気機関車、E34です。西武鉄道時代とほぼ同じ塗装を纏っています。大井川鐵道では他にも西武鉄道からやって来たE32、E33も在籍しています。トップナンバーのE31は古巣の西武鉄道にて静態保存されているため4両中3両が静岡の地で現役を続けていることになります。


機関車の後ろに連結されている3号車のオハ35 149は昭和15(1940)年に製造された車両。大井川鐵道では2番目に古い車両となっています。1940年といえば元ビートルズのジョン・レノンの生まれた年です。つまりジョンと同級生!


この車両の特徴はノーヘッダー試作車である事です。他の車両と比較するとヘッダー(窓上の補強財)が省略されており、幾分すっきりとした外観である事が分かります。


写真手前の車両がオハ35 149です。写真奥に連結されている車両と比較すると窓上の補強財が省略されていることが分かるかと思います。今の電車ではこの補強財が取り付けられていない仕様が一般的となりましたね。


製造銘板です。この車両には車両外側の妻面(他の車両との連結部)に取り付けられています。鉄道車両には大抵の場合、製造年と製造メーカーを示す銘板が取り付けられているためそれを見ればその車両がいつ頃に作られたものなのかが分かります。この車両は昭和15年に鉄道省の小倉工場(九州)で製造された事が分かります。鉄道省とは国鉄(現在のJRグループ)の前身で、この車両の古さをものがたっています。


オハ35 149の車内。木材が多く使われており、ニス塗りとなっています。出発前、殆ど乗客が居なかったため車内も撮影しました。因みに、この車両は戦後の昭和26年に修繕工事が施されているため、扇風機が取り付けられているなど、製造時当初とは異なった姿をしています。


Nikon F3 Nikkor-S Auto 5.8cm f=1.4

国鉄マークの付いた扇風機。夏場では無かったので止まっていました。今では扇風機付きの電車も殆ど見なくなりましたね。東京近辺の大手鉄道で今でも扇風機付きの車両が走っているのは東急電鉄、京成電鉄くらいしか思い付きません…。


続いて2号車に連結されていたのがオハ35 559です。この車両は昭和17(1942)年に製造され、今年で80歳を迎える車両です。この車両は元ビートルズのポール・マッカートニーと同級生!余談ですが、現在ポールは約3年振りとなるライブでヨーロッパを回っていますね。元気だなぁ。


僕が乗車したのは此方の車両です。この車両は戦前タイプの旧型客車の標準的な仕様で製造されているため、窓上にも補強財が取り付けられています。


オハ35 559の外観。戦前の旧型客車は基本的にこのような姿をしていました。なお、オハ35 149の外観の写真でも登場しており、奥に連結されているのが此方の車両。


此方の車両も内装には木材が使用されており、ニス塗りとなっています。オハ35 149の内装と比較すると此方の車両は椅子の脚が白く塗装されているのが特徴です。窓枠に取り付けられたテーブル(恐らく後年の改造で取り付けられたもの)の下には灰皿の撤去跡が残っています。昔は車内で煙草を吸う事が出来たのですね。


そして最後尾に連結されているのが、オハフ33 469です。此方の車両は昭和23(1948)年に製造された車両で、他の2両と比較すると比較的新しい車両ですがそれでも既に70歳を超えています。


写真左側の車両がオハフ33 469です。戦後タイプの車両は車体の構造が変更されており、車端部にあった屋根の絞りが省略されています。丁度急行かわね路号運行前の整備を行なっている所です。作業員の方の姿が見えますね。


車内の写真は撮り忘れてしまいましたが、他の2両とは違い、壁と座席の枠が白く塗装されているのが特徴です。床や壁などの構造自体は戦前タイプの車両と殆ど変わりませんが、白く塗装されている分此方の車両は明るく感じます。


この日充当された編成は、西武鉄道の電気機関車に戦前タイプのノーヘッダー試作車、戦前標準タイプ、戦後タイプという趣味的にも面白いバリエーション豊かな編成でした。


新金谷駅に入線してきた列車の車内に入るとオイルや埃の様な匂いが充満していました。何十年も働いてきた客車の匂いです。テンション上がりますね。


車内には青色のモケットが貼られた木製ニス塗りのボックスシートが整然と並んでいます。座面はクッションが効いており、座り心地も悪くはありません。しかし、背もたれが直角なので長時間の乗車にはあまり適しません。とは言え現在の近郊型電車のボックスシートと形状自体は大差ありません。ボックスシートの基本的な仕様は80年も前に既に完成の域にあったのですね。


速度はそこまで出さないものの、走行中の揺れが大きく、客車の乗り心地は決して良いとは言えません。それもそのはず。台車は今では見掛ける事が少なくなったコイルバネ台車よりも更に古い板バネ台車と呼ばれるものを使用しています。そのため、車輪の振動がダイレクトに車内へ伝わってくるのです。まるで某ネズミ王国のアトラクションのようなスリルのある揺れと音を楽しむ事が出来ます。トンネルに入ると薄暗い蛍光灯とトンネルで反響する車輪の音も相まって、気分は夜行列車です。


車体は所々塗装が剥げていたり、補修痕が見られたりと老朽化を感じさせる外観でした。しかしながら、台車は黒く綺麗に塗装されており、大切に扱われている事が窺えます。


復路は普通列車に乗る予定でしたが、旧型客車の乗り心地にはまってしまった僕は此方も急行列車に乗ってしまいました(笑)。それも往路と全く同じ車両にあたりました。


長くなりそうなので、乗車記と大井川鐵道を走るレトロな電車の紹介はまた次回にしましょう。