「香織ちゃんも食べないね。幸恵も食べないけど
...。」
ほんわりとした家庭の団らんの中で幸恵さんのお父さんが私にそう話しかける。
「うん。」
「香織ちゃんと私とで一人ぶんで充分だよね。」
と幸恵さんもいう。
「香織ちゃんも幸恵見たいに胃が小さいのね。」
「うん。」
『食べない』『胃が小さい』
とは、よく糞文学者にも言われたけど、糞文学者の言い方は
小食や胃の小ささを指摘する
小食や胃の小ささを批評する
っていうかんじで本当にイヤなのだ。
でも同じことを幸恵さんや幸恵さんのご両親に言われるとほんわりした気持ちになる。
「無理しないでね、お腹いっぱいになったら残してね。」
と幸恵さんのお母さんが優しく言ってくれる。
「香織ちゃんら無理しないでね。」
と幸恵さんも言ってくれる
糞文学者宅ではそんなことはなかった。
「もう食べられないの、食べないねー」
となんか軽蔑がましく言われる..。
胃がパンパンで苦しくて悲鳴をあげていてもただ黙って箸を置くしかなかった。すると
「しょうがないねー」
とバカにしたように言われるのだけだ。
全てが情よりも知勝るタイプだった。
マゼンタピンクのポロシャツに濃紺サテンの短パン...私と幸恵さんと同じ格好(ペアルック)で夏の宵の不動尊門前町を歩く。二人とも同じ背格好に同じ髪型、顔立ち、着ているものも同じ。幸恵さんの顔馴染みが
「あら幸恵ちゃんが二人っ!」
何て言ってくれる、キラッとした幸福感が宵の門前町を走り、「嬉しい」という感情が私たちの間を走る。
幸恵さんと一緒にいると楽しかった。幸恵さんは商業高校だった。
「O商って、赤三本線セーラーだよね。」
「でもT女のセーラーあこがれだったよ。夏服かわいい。」
「私たち、生まれる前から一緒だった本当の兄弟みたい。」
「うん幸恵さんのこと、大好き。」
「私も香織ちゃんのこと、大好き。」
そしてその晩も幸恵さんの家の幸恵さんの部屋に泊まった。
幸恵さんと私は体を絡み合った。
「香織ちゃん、暖かくて柔らかい...」
火照る二人のからだは甘酸っぱく燃えてそしてひとつに解け合った。
そして漆黒のなか、私たちは遠い過去に帰ったような感覚に包まれた。遠い子供時代に感じたなにか独特の寂しさ...。
「香織ちゃん、私たちはそれぞれ別の男の人のところにお嫁に行って、そして離れ離れになっちゃうのかな...」
「ずっと仲良しで居たいよ。」
「そうだよね。」