和ろうてはりますか~
申年生まれ、猿好きなれどサル顔ではないけんすけ福のかみでござる
前回の最後にふと付け足した五行の謡
狂言会ではお馴染の最後に謡われる付祝言の“猿唄”と申すものでござる
狂言『猿聟』という登場人物が皆、猿の面を掛けて出てござって、謡など一部を除いてずーっと猿語(きゃっきゃ、きゃあーきゃ等)で会話してござる、なんとも不思議な狂言がござる。楽しく観ていると太郎冠者(猿)と舅(猿)のやりとりも、聟(猿)の挨拶もなんとなく聴こえてくるようになってござって、その中でめでたく聟が舞い舅と相舞になっていくなんともめでたい気分になる曲なのでござる。
この猿聟の中で謡われてござるめでたい謡を取り出したものでござるによって猿唄と呼ばれてござる
狂言会の最後の番組が済み演者がみな幕の中へ入って後、鏡板の前に座ってござる後見、もしくは最後の番組が謡い付きでござれば“あと座”に座ってござる謡担当の狂言師が、謡い出すのが付祝言でござって
決まっているわけではないようでござるが、たいていは『猿唄』を吟じられまする
なほ千秋や万歳と
俵を重ねて面面に
俵を重ねて面面に
俵を重ねて面面に
楽しゅうなるこそめでたけれ
なおせんしゅうやーぁばぁんぜいと
たわらをかさねてぇめんめんにぃ
たわらをかさねてめぇんめんに
たぁわぁらをかさねてぇめんめんに
たのしうなるこそ めでたーけーれー
節がつけられましたならば、もう少し雰囲気が伝わろうものではござれども
そのような術もござらぬによってかな書きのみ付けてみましてござる
元の歌詞にない小さい母音“ぁぃぇ”は“マワシ”と申す謡の決まりの一つでござる
謡いの教本にはひらがなの“て”のような記号がござって、この印が右に付いた音は後に母音を付けることになってござる
このほかにも語尾を伸ばす印や、調子を上げる、下げる印など、謡独特の記号があるのでござるが
これらについてはいずれまたの機会に
ともかくも
最後にこの謡を聴くと
ああ今日も楽しい狂言を観られて好かったという氣分になるように思うてござる
狂言の内容はそれぞれ、太郎が横着だったり、大名が横柄だったり、女がわわしかったりしてそれぞれでござれども
この狂言の和らいのままに、平和な氣もちで今からを過ごしてまいろう!と
そしてまたこの“猿唄”が聴けますように!!と
そんな心の目印と思っているのでござる
ちなみに、素人狂言会の後席(打ち上げの宴会)でも締めにはこの“猿唄”がよく謡われてござる