鉄の掟 - 声帯ポリープ闘病記 Vol.6 | 小野寺昭憲オフィシャルブログ - 破壊と創造の記録 -

鉄の掟 - 声帯ポリープ闘病記 Vol.6

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 『何も口にしてはならぬ』――手術直後から今朝まで私に課せられた鉄の掟です。

 声帯ポリープ摘出手術とは、全身麻酔で眠らせた患者の口を開けて金属の筒を差し込み固定し、その筒の中に内視鏡と特殊メスを入れて声帯の腫瘍を切除するという手術です。

 なので外見上は一切の傷は見当たらず、且つ鎮痛剤の投薬により術後の痛みすら感じ得ません。それは本当に自分は手術を受けたのだろうかと、一抹の不安を生ぜしめるほどです。

 しかしこの手術の最大の苦痛は“痛み”ではなかったのです。云うなれば術前・術後の“飢え”と“渇き”です。

 一昨日の深夜零時から始まった断食は昨日正午の手術後も続けられ、今朝8時までの実に32時間に及ぶ人生最長の絶食時間と相成りました。日頃から食欲旺盛な私には到底信じられぬ苦行です。

 更にこの断食に追い打ちを掛けるのが断水であります。18時間水一滴だに許されぬ飢餓的状況は、都会の病院に在りながら宛らオアシス求めて砂漠を彷徨う旅人のコントです。

 ――嗚呼、キュートな看護婦さんよ、お許し下さい。私は昨夜空腹に耐え切れず、恐れ多くも断食の戒律を破り、飴ちゃんを1個、いや2個、実は最終的に5個ほど食べてしまう大罪を犯したのです!

 今朝方、流動食だと思っていた32時間ぶりの食事が普通の朝食メニューだった時、私は歓喜に打ち震える心で確信しました。――嗚呼、許されたのだと。

 白米一粒に、味噌汁一滴に心底感謝をしながら食した朝食後、眼前に現れた白衣の天使に懺悔の挨拶をしようとしたその刹那、私の脳裡に突如として芥川龍之介の「杜子春」の下りが蘇り、開きかけた私の口を閉ざしました。

 『何も話してはならぬ』――昨日から私に課せられた鉄の掟です。