徒然なるままに~追悼:Topsail Leo~
思いもよらない人からの電話に驚いた。
ここ数日、ボク自身の生活スタイルに異様さを感じていたのだが、そのためだったのかと今になって思う。
電話の相手は、4年前までお世話になっていた乗馬クラブのインストラクターだった。
こんな時期に彼からの電話など不思議で仕方なかった。筋トレしていたボクは、何かあると確信していた。
それもよくない報告だと……。
普段のように明るく「元気?」なんて話しかけてくる彼にもどかしさを感じた。
よく何かを察知したり、勘が鋭かったりするボクは、この時だけは外れて欲しいと願った。
しかし、やはり当たってしまった。
わかっていても心に穴があいた瞬間はさすがにつらい。
「レオが死んだんだ。馬主さんが今伝えること出来ないから伝えて欲しいと言われた。」と電話先で言われた。
「レオ」と言うのは「Topsail Leo」と言う馬の呼び名である。
ボクが小学校6年生の時に出逢った最高の愛馬であり最高の親友でもある馬だ。
ボクは小学校時代の一定期間、落馬が怖くて馬に騎乗しなかった。
その時、出逢った(やってきた)全日本チャンピオンホースに人生を変えられた。
この馬に乗りたいと直感で思った。
レオが当時ボクが通っていた乗馬クラブにやってきた経緯を話せば長くなる。
ショートカットして話せば、うちの乗馬クラブの馬とインストラクターが東京に研修に行っていたのだが、戻ってくる際に一緒に来た馬なのだ(九州に「レーニング」という競技を理解してもらうことを兼ねて……)。
馬とインストラクターが東京から戻ってきた夜、みんなは前から居たクラブの馬の馬房に結構集まって話しをしていたのを覚えている。
でも、ボク一人だけ「レオ」の馬房にしゃがみ込み興味津々に話しかけた。
「ねぇ、君はそんなにすごいの?」「君はやさしそうだね」「移動は疲れた?」「移動で大変だったのによく飯食うな」
今でも覚えている。
「レオ」との対面がアイツが飯(干し草)を食っている最中だった。
今考えると、「面倒くさい。ほっとけよ」とレオは言いたかったのじゃないかと。
それから、彼に恐る恐る乗ることになった。
始めは本当に何度も落とされそうになった。
全日本クラスの馬は楽器がかなり敏感に出来ている。
1㎜の体重移動でも反応してしまう。身体の重心がセンターに無ければ曲がってしまうほどなのだ。
そんなアイツには苦労した。
何をすればいいのかわからないくらいで悩んだ。
乗るのが怖いことなど忘れて一生懸命アイツと過ごした。
ご機嫌をとることもしたりとバカなことばかりしながら彼と仲良くなろうとした。
「アイツは短気で気分屋だ。」
でも、どこかデリケートな面もあって可愛らしい。しかも、ある時は我が儘だ。
びびりのくせに本番強い。そして、信じてあげれば答えてくれる。
そんな彼との時間が長かったせいか、ボクが今同じようなことを言われる。
「俺は馬と同じか?」
日本一の馬は日本一変わっている。
ボクが出逢った中で一番扱い方に困った馬だ。
ただ、少し心を開いてくれれば、目茶苦茶甘えてくる。
ボクのことを信じているかのように……。
ボクのこと大好きだよって言ってくれるかのように……。
こんなおもしろいエピソードがある。
彼が試合前に足を痛め、足を引きづりながら歩いていた時のことだ。
いつ倒れてもおかしくない彼にボクは心から心配した。
足が痛いのに歩こうとする彼にバカだと泣いていた。
早朝、直感でなのか、放牧されていた彼に会わなきゃとレオの元に行った。
案の定、アイツは目は開けていながらも、全身横になっていた。
馬の片面、地面に横にびたりとついた状態で寝ていた。
馬は大抵、立って寝る。外的から身を守ろうとする本能から来ているようだ。
だから、警戒心が強い。
レオにボクは泣きながら近づいた。
警戒心の強いレオなのだが、あの日だけは動かず寝ていた。
ボクが泣きながら、「目を閉じていいんだよ。ボクが来たから。一人でがんばんなよ」って膝枕をした。
アイツは目を閉じ、いびきをかいて30分くらいは寝ていたように感じた。
人の気配が感じた時、あいつは起き上がり、また痛い足を引きずりながら起きた。
ボクは馬と同じなのか?
ここでまた疑問に感じるが、試合よりも何よりもよい二人の思い出だ。
馬を膝枕して寝かせたなんてやつはあまりボク自身耳にしたことがない。
お互い馬だとも人間だとも思ってない関係性だったかもしれない。
一般的にはいい関係性とは言えない(馬自身が人間をなめることにつながるから)。
しかし、僕らにとってはけじめあるいい関係だった。
レオは親友であり、ボクの支えだ。
ボクがいじめられた時、ボクが落ち込んだ時、ボクが悩んだ時……いつも話せば聞いてくれた。
マイペースに干し草を食いながら、ボクの話を聞いてくれた。
あいつの背中でたくさん泣いた。
あいつと何度も何度もキスをした。
あいつとわからないくらい喧嘩した。
あいつといるだけで心が安らいだ。
あいつと試合に臨めば今のボクの課題を教えてくれた。
ウエスタン馬術の中で最も競技人口が多く人気の高いレーニング競技。そんなすごい競技にあいつと出場できた。
中学3年生のとき、全日本ウエスタンチャンピオンシップ2001のルーキークラスで優勝させてくれたのは、レオだった。当時、大会では最年少のレイニングライダーだった。
あいつのおかげで人生変わった。雑誌に取り上げられ、「今後の活躍が期待される注目のライダー」とまで言われた。
そのためか、特別スポーツ推薦枠で進学校に入学し、今の日藝でも一芸としてAO入試を通過し入学した。
レオはボクを世界ユースの話しまで導いてくれたすげーやつだったんだ。
レオが居なければ、今のボクは存在しない。
今とは全く違う道を歩んでいるだろう。
そんなすげ~親友のレオの訃報に言葉がでなかった。
インストラクターから「憲将、変わったな。しゃべり方も(笑)」なんて言われたけど、当然だ。
レオが死んだなんて理解出来ないからだ。
あいつはボクより4つ年上だ。今はもう26歳になるんだろう。
馬は1年に4歳も年を取る。
だから、今は104歳だったんだろう。
馬の中ではかなりの長生きだ。
それにしても、ボクにとっては永遠に生き続ける馬だったんだから、
死ぬなんて考えられないんだ。
だから、空元気な声でしゃべるしかないに決まっている。
ただ、電話を切ったあと、自然と声がもれていた。
「レオ~、レオ~」って。
窓にすがりながら大きな声で叫んだ。
今日はいい天気だ。
レオが旅立つ日だから。
悔しい。
あいつに会って別れることが出来なかったこと。
情けない。
あいつに立派になって有名になった俺を見せることが出来なかったことが。
レオはボクに言うだろう、
「生きろ。そして、信じろ。」と。
レオはボクにいうだろう、
「自分の道は自分で切り開け。そして、お前が努力するば、結果がお前に答えを教えてくれる」と。
レオ、ありがとう。
もうお前は新しい旅立ちだな。
俺、強くなるから、俺の心の中にずっと友達としていてくれよ。
俺、負けないから、俺のこと見守っていてくれよ。
空をみて、お前にいつか微笑んでやる!!
俺も一流になったぜって!!