「では、これで」
そう言って、後ろを向く
入ってきた扉をくぐろうとした
袖が、ひっかかる
右袖を見ると、白い指が掴んでいた
「?」
俺は、部屋の主人をみつめる
「まだ、なにか?」
美しい女人は、しばらくうつむき、決意したように、顔を上げた
「おねがい、があるの・・・」
俺は扉の向こうのムガクシ達に声を掛ける
「もう少し話がある。お前たちは下がっていいぞ」
ムガクシ達の立ち去る足音がする
遠くに消えたのを確かめてから、改めて向き直る
「どうしたのですか、イムジャ。
何か、困った事でも?」
俺は、まだ俺の袖を握る続けるイムジャの手をとった
細くて、綺麗な指
俺のごつい手が、それを包み込む
こうして手を握れるまで、どのくらい時間がかかっただろう
この俺が握ってもいいのか、と逡巡する気持ちもある
けれど握っていないとさびしくなるから不思議だ
二人だけの時はこうしているのが、すごく、落ち着く
「チェさん」
イムジャの唇がうごく
「あのね、わたし・・・」
「はい?」
「kissしたいの」
「え?」
「くちづけ」
「く・・・」
驚いた
イムジャの口から、そんな言葉が出るなんて
俺は、イムジャを見つめる
イムジャの顔が真っ赤になっている
「・・・だめ?」
潤んだ眸が、じっと俺を見つめてる
半開きになった口元
しっとりとした唇を思わず凝視する
イムジャらしい、といえば
イムジャらしい
素直な気持ちなのだろう
応えない俺に、業を煮やしたのか
拳を俺の胸にたたきつけた
「ごめん、変な事言って。
はしたなかったわね。
行って。
行っちゃって。
・・・私の言ったこと、忘れて」
恥ずかしくてたまらないのか
何度も俺に拳を叩きつけ、下を向く
俺も我慢をしていた
大切にしたい方だからこそ。
俺は、胸の拳を握るとぐい、と引っ張った
イムジャのからだが、俺の腕の中に納まる
「チェ・・・」
最後まで、言わせなかった
赤い唇をむさぼるように吸い付き、噛んだ
息をするのも惜しむくらい、何度も何度も向きを変え
唇を合わせ、口腔を蹂躙する
唇から、からだ中に熱さが広がり
もっともっととより唇が近づき、からだも近づく
抱く腕に力がこもる
俺の襟元を掴むイムジャの指が
白く変わっていくのを目の端で捉えていた
長い間合わさっていた唇を、はずす
「はあ・・・」
声にならない声がイムジャの唇から洩れ、
ぐったりとしたからだを俺にあづける
細いからだを抱きしめ、背中をなでさする
「こんな、すごいの、たのんでない・・・」
潤んだ眸で言われても、怒られたようには聞こえない
「まだ、足りないですか?」
俺は、しらっとこたえる
足りないのは、俺のほう
きっと、あなたの数十倍は我慢していた
もっとしたいのだ、とは絶対に言わない
「ばーか」
そう言うと、イムジャは背伸びしてそっと俺の首に腕をまわした
ちゅ、っと音を立てて軽く俺の唇に唇を合わせた
「初めてはこれくらいでしょ?」
これくらいのkissでよかったのに・・・
最後の言葉は消えそうなくらい小さかった
けれど言葉が嘘だって事は、すぐわかる
ほんとうに嫌なら、あなたは俺を突き飛ばすでしょう?
ちょっと恥らいながら
俺の胸に顔をうずめるイムジャ
今までにないくらい近く、甘えるイムジャに
今までにないくらい胸が高鳴り、愛しさがあふれる
「それでは物足りないでしょう?」
イムジャのあごを掴んで上を向かせると
俺はイムジャの額に、頬に、鼻にゆっくりと唇を落とす
小さく笑むイムジャに、俺も微笑み返す
見つめあい
イムジャの眸に俺が映る
そうして、瞼が閉じられて、俺が消えると
俺はゆっくりとふたたび唇を重ねていった
甘くて、優しい時間がながれていく
こんなおねだりなら、毎日だってねだられよう
イムジャ
明日もねだってくれまいか?