まったく、あの方ときたら。
俺は心の中で、毒づく
俺が目を離すと、いったい何をしでかすんだかわかったもんじゃない
俺は、馬のチュホンの腹を蹴る
何で、じっとしていられないんだか
確かに、最近、すこしおかしかった
俺と視線が合うと急にそらしたり
何か、言いたげにしては、うつむいたり
そのくせ、俺が背中を向けるとじっと、俺を見つめている
目が合わなくたって、そんなの、気配でわかる
そうして、小さくため息をつくんだ
言いたいことがあるなら、俺に言え、って
何回も繰り返して伝えた
チャン侍医からの知らせでは、あまりに思いつめている、だと?
一人で逃げそうだから、出かけてもいいと承知して
ムガクシをつけて、トルベも向かわせた、と。
トルベがいれば、大丈夫だろう
あいつなら、うまくやってくれる
あいつを、残しておいて、良かった
王様の寺詣での帰り道に伝えられた知らせを聞いて
最初に沸き起こった感情は、怒りだった
そんなにも、俺は頼りないか?
信用ないのか?
口下手な俺が、口を酸っぱくして伝えたのに
あの方には伝わっていなかったのか
あまりの俺の気配に
輿の中の王様が医仙を探しに行くように下知してくださった
ありがたく、受け、俺は市場に向かっている
市場に先回りしていたテマンに馬を預けると
俺は薬問屋の門をくぐった
店先からぐるっと回り、裏庭に出る
そこにはトルベが筵に横たわった数体を調べていた
口から、泡が出ている
毒を飲んだらしい
「テジャン・・・。申し訳ありません。生きたままひっとらえたのですが
目を放した隙に毒を飲まれてしまいました。」
これで、誰の指図か、問いただせなくなった
やはり、狙われたか
あの方が思っている以上に、あの方の存在は大きい
「医仙は?」
そこに、薬問屋の老主人が現れた
スリバンの一人で、俺も旧知の間柄だ
「隠し通路を使って、お逃げいただきました」
以前、俺も使ったことがある
俺はうなづくとテマンに備巡衛の兵を呼びにいかせ、
トルベに後の始末を任せ
チュホンに飛び乗った
秋の涼しい風が、川風とあいまって余計に涼しく、
俺の怒りで火照った身体をなでていく
川原の近くに木にチュホンをつなぎとめると
石ころを踏みつけて歩いていく
あの方の赤い髪が夕陽と重なって
きらきらと反射している
そのまばゆい光が、遠目からもその存在を俺に伝えた
あの方は大きな岩の上に、座り、じっと川面を見つめている
傍にムガクシが、立ち、あたりを見回している
俺の姿に気がつくと、ムガクシが礼をする
俺は小さくうなづいた
「こんなところに、いらっしゃいましたか」
声を掛ける
イムジャは、振り返りもしない
ずっと、川面をみつめたままだ
着ていた上着を脱ぐと、イムジャの背中に、そっとかける
「川沿いは、冷えます」
やっと、俺を振り返る
「チェさん、どうしてここにいるの?」
その眸は無表情で。
俺はイムジャの気持ちを掴みかねた
俺が傍に来て、喜んでくれるとも思わなかったが
さりとて嫌がっているようでもない
何をそんなに思いつめていたのか
時々、この天からの女人の気持ちがわからなくなる
それでも、俺の上着を自分でしっかりとかけなおして
上着の袖をぎゅっと握って、安心したような顔をされると
怒っていた気持ちが、徐々にしぼんでいった
ムガクシに向き直る
たしか、ハニャン、という名だったはずだ
「ハニャン、戻って医仙が無事なことを伝えてくれ。
頑張ってくれたな」
自然に、ねぎらう言葉が口から出ていた
ハニャンはびっくりしたような顔をしたが
ちら、と医仙の顔を見ると、礼をして
王宮に戻っていった
イムジャは、川面をじっと見続ける
俺は、その横に立ち
同じ川面をじっとみつめた