「これは・・・〝彼〟の曲だ」
 健太はゆっくりと踊りながら言った。
「ああ。これ知ってる。けっこう前にヒットしたもの。〝彼〟のクリスマス・ソングだわ」
 沙也夏は健太に体を預けたまま、静かに言った。
「私のことを歌ってるみたい。イブは、本当にに好きな人と過ごしたいだなんて・・・泣けてきそう」
 〝彼〟の曲は沙也夏をせつない気持にさせた。
「どうして・・・どうして俺ときみは別れなければいけないんだ?どうして・・・」
 健太は、今まで我慢していたものが頬をつたって流れた。
「ごめん・・・ごめんね。私があなたを誘わなければ・・・遠くから見ているだけだったら・・・」
沙也夏は健太にしがみつくようにして抱きつき、健太は上を向いてただ泣いた。
「みっともねぇな。泣くなんて。でも・・・でも・・・くそっ」
 健太はそう言うと、いきなり、沙也夏を抱きかかえて寝室へ行った。


 それから、ふたりは感情にまかせて、愛し合った。せつなさや、淋しさが入りまじった複雑な気持で、狂おしいほど愛し合った。
ふたりが別れを惜しめば惜しむほど、時間は無情にも過ぎていく。
 気持が落ち着いたのは夜も深い時間だった。
ふたりはベットで抱き合いながら話していた。
「健ちゃん。約束してほしいことがあるの」
「何?」
「朝、私が先にホテルをチェック・アウトするわ。健ちゃんは私が出ていくのを見送ってほしいの」
「それはつらいな・・・」
「一緒に出たほうがもっとつらい。そのまま、エンドレスのように別れられなくなる気がするの。私は明日から生まれ変わらなければいけないの」
「生まれ変わるか・・・。沙也夏は強いな」
「強くなんかない。ただ・・・気持を変えないと、生きていけそうもないから」
「俺はどうしたらいいのか。明日から何を頼りに生きていけばいいのだろう」