健太は立ち上がり、沙也夏の肩に手をかけ、まっすぐ目を見て言った。
「沙也夏。ここで怒るのは簡単だ。俺が感情にまかせてきみを罵倒したらどうなる?それは、一番嫌な別れ方だ。今まで俺がきみを愛し、きみが俺を愛したことが意味がなくなる。なぜ、俺が部屋を出て行ったと思う?あのまま話してたら、俺は感情をきみにぶっつけそうだったからだ。だから、ひとりになって考えたんだよ」
「優しすぎる・・・あなたは優しすぎるわ」
「しかたないさ。これが性分だから」
「でも、そんなあなたが好き。そんな優しいあなただから、私は好きになった」
「俺もだ。どこがと聞かれても答えられないけど。しいて言えば、きみは人の弱さがわかる女だ。それは言葉のはしはしにでてくる。だから、結婚すべき男がいたのにほかの男を好きになったのさ」
 沙也夏は健太の言葉にたまらなく感激した。
健太の胸に沙也夏は静かに抱きついた。健太は沙也夏をしっかり受け止め、肩を抱いた。
「俺は沙也夏を愛した。だから、最後まで愛したままでいよう」
 沙也夏は健太の胸のなかで頷いた。
健太自身、男のやせ我慢とわかっていたが、こうすることが一番の方法だと思った。


 ふたりは抱き合ったまま、ソファーに座った。
健太はテーブルの横にあったラジオに手を伸ばして、スイッチを入れた。ラジオからは懐かしい曲が流れだた。
カーペンターズの〝イエスタディ・ワンス・モア〟だった。
「踊って」
 沙也夏は健太の耳元に囁いた。
「踊れないよ」
 健太は笑って言った。
「踊れなくてもいい。ただ、私を抱いて立っててくれるだけで」
「・・・・・わかったよ」
 ふたりは互いの想いを曲にのせて踊った。
カーペンターズの曲が終わると、今度は聞き慣れた曲が耳にはいってきた。