「あーあ、気持よかった」
 健太は沙也夏の声でやっと受話器を置いた。
「相変わらず長風呂なんだな。ふやけてないか?」
「お風呂ぐらいゆっくり入らなくっちゃ。電話だったの?」

 沙也夏はバスタオルで顔をふきながら、尋ねた。
 健太は沙也夏の風呂あがりの顔を見るたび、彼女が薄化粧にこだわっているのがわかるような気がする。とにかく健康的だ。肌がきれいというよりも、元気なのだ。別に化粧しなくてもいいんじゃないかと思う。
「純ちゃんからだった」
「純子さん?なんだって?」
「ついに結婚するそうだ」
「結婚?結婚するの!」
「あ、言ってなかったっけ。既成事実が判明して、そのままゴールインってわけ」
「へぇー。で、相手は?」
「淳之介」
「うそーっ!淳之介さんと純子さんが・・・」
「うそーっじゃなくて本当のは・な・し」
「いつからなの?」
「夏のライブの打ち上げの後らしい」
「じゃ、わたしたちと・・・?」
「そういうこと」


 沙也夏は信じられないといった表情で、鏡をテーブルの上に立てて、髪をとかしはじめた。
 健太は二本目のバドを飲もうと思い、立ち上がった。
冷蔵庫に頭を突っ込みながら、健太は話すには今がいい機会だと思った。
健太はビールを持ってきながら、沙也夏を見た。
 沙也夏は髪のほうが終わると、次はパックをするのが習慣になっていた。健太もそれは知っていたので、言うのはもう 少し後にしようと思った。


 沙也夏は髪を溶かしながら、健太の落ち着かない態度を感じていた。
〝この人は感じている。具体的なことは気づかれてはいないだろうけど、何かを隠してると思っている。でも、今夜は嘘をつきとおそう。本当のことを言うのはイブの日にしよう。嘘つきと言われてもいい。それは最初からわかっていたことなのだから〟
 沙也夏は健太と違って、強い決意でいるようだった。