ポルシェは郷ノ浦を過ぎ、ほぼ壱岐の真ん中あたりの位置を走っていた。沙也夏はルート382に別れを告げて、細いルートに入った。どうやら芦辺町へ向かっているようだ。
 石田町から芦辺町へ向かうのは、わざわざルート382を通らなくても直接行けるルートがあるが、道が複雑で、それに観光史跡が多く点在していてシーズンは避けたほうが無難だ。沙也夏はその点も知っていた。健太は潮の香りと景色を楽しみ、沙也夏は運転を楽しんでいるようで、あまり喋らなかった。
潮風を体いっぱい受けていると、二日酔いも眠気も吹き飛んでいくようだった。
 沙也夏がポルシェを急にスローダウンさせた。
「どうしたの?」
「うに飯食べない?」
「うに飯?」
「そう。せっかく壱岐に来たんだから」
「でもまだ腹減ってないよ」
「じゃ近くに観光地があるからそこで時間をつぶしたら?」
「まあ、別にいいけど・・・」
「じゃ決まりね!」


 沙也夏はウィンカーをあげて、ポルシェをUターンさせて今度は左に折れた。しばらく走ると潮風が強くなってきた。
そして左手に変わった名前の食堂が目にはいってきた。
〝はらほげ食堂?変な名前だなぁ〟
「あそこのうに飯がおいしいの。壱岐で海の幸を食べたいのなら、はらほげ食堂ね」
 沙也夏は自慢するように言った。
「名前が変わってるね」
「あ、そういうふうに言うってことは壱岐は初めてでしょう」
「うん」
「もう少し行けば、その名前の意味がわかるわ」
 そう言って、沙也夏はその食堂の駐車場にポルシェを滑り込ませるように入って止めた。
ふたりはポルシェから降りた。
「ちょっと待っててね」
 そう言うと、沙也夏は食堂の中へ入っていった。