「ヒロシ、わりい。急用ができた」
「沙也夏さんだろ。いいよ。行ってこいよ」
「よくわかったな」
「その顔見たら、わかるさ」
 ヒロシは笑って言った。
「えっ、沙也ちゃんから電話があったんすっか。じゃ今からデートっすね。健さん、今夜こそバッチリ決めてくださいよ」
「バーカ。おまえ飲みすぎだって。じゃヒロシ、すまんな。三人にはよろしく言っといてくれ」


 夜の十一時過ぎだというのに、人の流れはあまり減っていないようだった。夏という季節は人の心を開放的にするらしい。
 健太は、はやる気持ちを押さえるように、街の中を歩いていた。
〝まさか彼女が来ているとは思わなかった。しかし、こんな夜中に公園なんかで待ってて大丈夫かなぁ〟
 どうやら沙也夏とは公園で待ち合わせらしい。健太の歩くスピードがだんだんと増していた。
 公園につくと沙也夏の姿を探した。沙也夏はすぐ見つかった。
彼女はブランコに乗っていた。健太はその姿を見て思った。
〝あいかわらずきれいだけど、いつもと違うな。なんか淋しそうだな〟


 ブランコは少し揺れていて、沙也夏は下を向いていた。
白いTシャツが公園の外灯に照らされていた。
 健太はわざと陽気に声をかけた。
「やあ。お待たせ」
 沙也夏はびくっと顔をあげて、慌ててブランコから降りた。
「ご、ごめんなさいね。打ち上げの途中だったんでしょ?」
「いや、もうみんな酔っぱらってしまってね。だらけてしまってるよ。淳之介なんかろれつがまわってない。ハハハ・・・」
「健太さんはそんなに酔ってないみたいね」
「そんことないさ。酔ってるよ。俺は最初一気に酔うんだけど、あとはいくら飲んでもそんなに酔わないんだ」
「じゃ、これ。酔い覚ましにいいわよ」
 そう言って、沙也夏は缶コーヒーを健太に放り投げた。

缶コーヒーは弧を描くようにして健太の手に収まった。