十一月中旬、エディは沙也夏にイギリスで一番美しい場所へ行こうと言い出した。そして一週間後の明け方。一番列車に乗り出発した。
ロンドン・ユーストン駅からオクスホルムまで約三時間三十分。そこからローカル線に乗り換えて、約二十分後にウィンダミア駅に到着。
ウィンダミアの街並はとてもおだやかだ。
まるで、おとぎばなしの国の入口のようでもある。それもそのはずだ。沙也夏とエディが行こうとしているのは、あのピーター・ラビットのふるさとなのだから。
そのウィンダミアからは車で移動することにした。エディはあらかじめ車を友人から借りるようにしていたらしく、その友人は車とともにウィンダミア駅で待機していた。
そして、車をしばらく走らせると、雄大な自然が見えてくる。静かにたたずむ山や渓谷に、無数の小さな湖が姿を見せる。谷間にはのどかな牧草地や石積みの家が見え隠れする。
沙也夏は思わず声をあげた。
「すご~い!きれいね。ヨーロッパはやっぱりスケールが違う」
エディは車を路肩に寄せて、窓を開けた。
「やっぱ、ここは空気が違うなぁ。サヤカ、日本にはここみたいな所はないだろ?」
「あ、それって日本をバカにしてるわけ?ちゃ~んとあります。北海道って所がね。ここみたいに大自然がいっぱいで、冬には雪祭りってのが有名なの」
「ホッカイ・・・?」
「ホ・ッ・カ・イ・ド・ーよ」
「うーん。知らないなぁ。俺って日本はトオキョーしか知らないんだよな」
「もっと日本のことも勉強してよ。北海道はね、ものすごーく寒い所なの。だけど夏は、日本で一番過ごしやすい所よ。私の住んでた福岡とじゃ、風が違うの。ほんとに爽やかっていうイメージなの」
「風か。その点はここと共通点があるな。ここは湖畔のそばにたたずんでいると、風が気持ちいいんだよな」
「ねえ、エディ。さっきから聞こうと思ってたんだけど、ここは何て所?」
「ハハハ・・・。わりい、わりい。先に言っとくべきだったな。ここは湖水地方といって、このあたりは大自然という感じだけど、もう少し先に行くとピーターラビットのふるさとがあるんだ」
「ピーターラビット!行こう、行こう。早く行こうよ」
とたんに沙也夏ははしゃぎだした。
「まったく、女っていうのはなんでこうピーターラビットが好きなのかな」
エディはぼやきながらも、顔は笑っていた。
そして、セレクター・レヴァーをドライブに入れて、再び車を走らせた。