
ちょうどジェニン難民キャンプで支援活動を続ける写真家の高橋美香さんからの窮状を訴える声に呼応して、友人が日本でカンパ活動を始めた。筆者も高橋さんの報告を読むなどして僅かばかりの支援をした。パレスチナ・ガザや西岸の状況に陰鬱な思いを抱えていたし、私たちの支援金ほどではどれくらい現地の改善につながるのか心許ないが、自己満足も含めてのことだ。
イスラエルによるガザ攻撃の説明記事では、よくパレスチナ自治区の(支配)地域が映し出される。南西のガザ地区と北東のヨルダン川西岸地区である。しかし、この地図の示し方は誤解を招くと本作のパンフレットに寄稿する高橋和夫放送大学名誉教授は指摘する。イスラエルにより80〜90%も破壊されたというガザ地区で、地元住民が確保できる区域は地図よりとてつもなく小さい、狭いのは明らかだが、西岸はそれよりかなり広く、十分に居住地域が保障されているではないかと見てしまいがちだからだ。しかし、高橋教授は西岸地区で、パレスチナ人が行政も治安維持も担っているのは半分ほどである事実をイスラエル側による入植地を示すことによって明らかにする。本当に虫喰い状態で、パレスチナ人が互いに行き来することを困難にするよう企図しているからだ。
「入植」とは実は字面ほど穏やかな実態ではない。バーセル・アドラーは西岸のマサーフェル・ヤッタ出身のパレスチナ人ジャーナリスト、活動家。ユヴァル・アブラハームはイスラエル出身の調査ジャーナリストである。この2人に加え4人組で本作の監督・制作・編集をこなす。画面に登場するのはほとんどがアドラーとアブラハームで、目の前でアドラーの故郷がどんどんイスラエル軍の重機で押し潰されていく。住民を銃で追い立て、時に抵抗する者を撃つ。軍と一体化した入植者は違法建築で裁判所の執行命令もあるとする。しかし、そもそもパレスチナ人の土地に暴力的に「入植」し、治安維持を名目にパレスチナ人を追い出しているのはイスラエルの方なのだ。これは、紛れもない侵略・占領と侵略者による「平定」である。しかし、住む場所を破壊された一家は洞窟に一時避難するが、「一時」ではないのが明らかだ。そして、イスラエル軍が破壊するのは住居にとどまらない、学校も公共の建物も。
パレスチナの苦境を描く映画はさまざまに制作されてきた。移動を妨げる「分離壁」をめぐる苦難と友との葛藤、そして命を賭した反抗を描く「オマールの壁」https://blog.goo.ne.jp/kenro5/e/a8a94075cb3d609f57aa59cc991273d8)など優れた作品も多い。しかしそれらは劇映画で、本作がドキュメンタリーであることの意味は大きい。ブルドーザーがついさっきまでパレスチナ人が住んでいた建物を押し潰し、撃たれる。全て生身の映像なのだ。カメラを向けるアブラハームらを軍が銃で威嚇し、追い払おうとする。逃げ惑い、揺れる映像もそのままだ。映されたくない、広められたくない悪行を自白しているようなものだ。ところが、入植者=イスラエルの狙いは確実に奏功している。故郷に戻ることを諦め、都市に出ていくマサーフェル・ヤッタ住民も少ないからだ。しかし、だからこそ、アドラーらは撮り続ける。
本作は2024年度のアカデミー賞ドキュメンタリー部門で作品賞を受賞した。ベルリン国際映画祭に続く快挙ではある。パレスチナに対するイスラエルの暴虐を絶対認めないドイツとアメリカでの受賞。現地で映像で、抵抗は続き、また支援を止めるわけにはいかない。(「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」2024ノルウェー・パレスチナ)