ジョージとの15回目の入籍記念日に、離婚届けを出すために、新宿に向かった。

待ち合わせの場所に行くと、すでに、ジョージは、来ていた。

ジョージの実家は、今は、神奈川の郊外にあるが、昔は 新宿にあったため、本籍地は新宿だったのだ。

 

入籍の時も、その区役所に2人で届けに行ったので、離婚届けも2人でその区役所に行くというのが、ジョージのこだわりだった。リロは従うしかなかった。

しかも、その近くにジョージの両親の眠るお墓があった。まずは、そこにお墓参りすることになった。

リロとしては、複雑な気持ちというか、会わせる顔がない。。。というのが、正直な気持ちだったが、申し訳ない気持ちもあったので、真摯に手を合わせて、お参りを済ませた。

 

いよいよ、区役所へ。お寺から、徒歩で15分くらいだった。

 

たしかに、こんな道だったなあ、と、懐かしい気持ちで、暑い日差しの中歩いた。話すこともなく、淡々と2人で歩くしかなかった。

暑いね。。。そうだね。。。

そんな会話ばかりしていたような気がする。

 

そういえば、ジョージの定年の時、年金の手続きに戸籍謄本を取りに来たこともあった。

その時、リロが、来庁の理由を言うと、窓口の担当者は、「お父さんの年金の手続きですね?」と言った。そんなことを思い出し、くすっと、笑ってしまった。

ジョージとは、親子に見えるほどの歳の差があったのだ。

 

 

役所に着いて、順番を待って、離婚届けを提出した。本人確認の書類がいると、言われ、リロは、運転免許証を提示したが、ジョージには、それがなかった。お酒ばかり飲んでいたので、免許は、持っていない。健康保険証には、写真がなく、これだけではだめだと言われた。

 

お役所仕事だと、頭に来たが、結局、5つの質問をするので、それに答えられたら、本人確認とすると言われた。

 

ところが、ジョージは、ほとんどの質問にしどろもどろで、答えられない。。。

 

今の一つ前の住所は?

二つ前に、住んでいた都市は?

父親の生年月日は?

母親の生年月日は?

などなど。。。

 

なかなか、答えられない、ジョージに、リロも隣でハラハラしながら、小声で、ヒントや答えを教えて言ってしまった。

役所の人に怒られるかと思ったが、むしろ、応援してくてたので、笑い出してしまった。

この人と、離婚して、ほんとによかったなあと、しみじみと思ったリロだった。

 

そして、最後の質問は、リロにも知らないことだったので、ヒントも答えもだせず、困っていると、

ジョージが、

「これが、あるんですが、だめですかね。。。」

ゴソゴソとかばんの中から、出したものは、なんと、戸籍謄本だったのだ。

ジョージは、リロと結婚していた記念とっておきたくて、今日の午前中、1人で先にきて、この戸籍謄本を申請していたのだった。

 

リロは、唖然とした。

 

役所の人は、

「それは、本日、離婚となりますと、無効になりますので、お金をお返ししますので、返して下さい。」

と、落ち着いた口調で、事務口調で、淡々と言った。

 

ジョージは、結局、せっかく午前中取りにきた苦労も虚しく、取り上げられてしまった。

 

 

そんなこんながあったが、無事に、離婚届けを受理してもらった。

 

リロは、ほっとした。

 

区役所を出て、深々と頭を下げて

「今まで、ありがとうございました。」といったが、最後の方が涙が込み上げて、うまく声にならなかった。

 

ジョージは、手を差し出してきて、握手をした。

 

少し間、そのままで涙が止まるまでリロは、動けななかった。

 

ちょうど、信号も変わったので、2人で駅に向かって、歩きだした。

 

少しして、リロが、人懐っこい顔で、

ジョージの顔を見て、

 

「そういえば、午前中来た時は、身分証明書がないのに、どうやって、戸籍謄本取れたの?」

 

「午前中も、同じように5つの質問されたよ。。」

 

リロは、声を出して笑った。

ジョージも笑った。

 

やっぱり、この人と、離婚してよかった。

でも、この人は、悪い人じゃなかったなあ。お酒さえ飲まなければ。。。


 

こんなおかしな離婚になるとは、思いもしなかった。

2人らしくていいかもね、そんなふうに思ってリロは、微笑んだ。

 

ちょうど駅についたリロは、じゃ〜ね、と、わざと、明るく言って、手をあげて、バイバイと、手を振って別れた。

 

前を真っ直ぐ向いて歩き出したリロは、二度と降り返らなかった。

 

目には涙が、止まらなかった。