careless breath(Ver1.0)
For EXILE M-XXX
by Kenn Kato

ためらいがちに伏せた瞳
この手がその髪 引き寄せてた
揺れる吐息を感じながら
さまようくちびる けれど重ねた

あれからぼくたちは何度となく
時の隙間を紡いで来た
決して約束できない
未来だからこそ ただ純粋に

あきれるくらいにわがままなBreath
すべてはあの時始まった
いつかは途絶える運命のBreath
それをぼくらは知りながら
惹かれあった

もしも時計を外したなら
永遠はあるの? 君が囁く
なにもいえずにこぼれ落ちた溜め息
涙が胸を濡らした

それならばなぜ私に触れたの?
いいわけのひとつもいえずに
そして責めることもなく
君は突然に姿を消した

あきれるくらいにわがままなBreath
求めて、溺れて、傷つけた
すべてを失くした不用意なBreath
悔やむ度またその痛みが締めつける

嘘でもいい…と きっと望んでた
君の気持ちに応えきれず
臆病なぼくがもし答えていたらまだ
続いてたのか?

カラダが憶えた不規則なBreath
もう一度すべてで感じたい 
体温、それしか信じられず
抑えきれない衝動で

あきれるくらいにわがままなBreath
求めて、溺れて、傷つけた
すべてを失くした不用意なBreath
悔やむ度またその痛みが締めつける

27.MAY.05
by Kenn Kato

COPYRIGHT/ALL RIGHTS RESERVED BY Kenn Kato and rom△ntic high


 さて、今回はお約束通り生歌詞シリーズ第1弾としてもっともリクエストが早く、数もいただいたEXILEの「careless breath」からお届けします。これに触れるのはちょっと勇気がいるけど(笑)ちなみにこれは一番最初にあげた、いわゆる初稿、ってやつです。なので実際に収録されたものとは若干違うところがありますので御了承下さい。

 作曲はいまalanのプロデューサーとしても活躍しているぼくが大好きな作曲家のひとり菊池一仁氏です。

 実は今日もつい先程まで彼の曲に詞を書いてました。そんなこんなでタイムリーなのでこの作品を取り上げさせていただきます。ちなみにタイトルの下のXXXなんですが通常作曲者の3文字イニシャル+作品番号が書かれていますが、これは企業秘密なので隠させていただきました。

 ぼくはいつも書き終えるとその下に日付とサインを入れる癖があるのですが、こうしてみるともう4年半の歳月が流れてるんだねぇ。

 ちょうどぼくがavexに移籍して1年経ったくらいだったと思います。ある日EXILEを担当(現在も)しているavexのベテランディレクターH氏から電話が入ったんだっけなぁ。このH氏はぼくが最も信頼している年上のディレクターであり、経験も豊富で音楽もよく知っている人格者。当然扱いの難しい作家陣のとりまとめも一枚上手なのですわ(笑)

「あ、けんさん?Hです。お久しぶりです。相変わらず絶好調じゃないですか、忙しいですか?」

 こう切り出したわけですよ。さりげなく持ち上げてスケジュールの確認をササッとする。当然ぼくは自分のマネージャー以外に対しては忙しくても忙しい振りをするタイプではないので、

「いや、そんなにタイトじゃないっすよ」

とうっかり答えてしまった。その頃ぼくはもうEXILEの現場を離れてけっこう経ってたから、まさか発注だとは思ってなかったのよ。ちなみにぼくは決してEXILEとなにかトラブルがあったわけでもなく、ただ本人たちが書けるようになって来たし、一方で新しい方向性を模索していたからもう自分の役割は終わりだと思っていたんだよね。

 ここら辺、誤解している彼らのファンの方が結構いるみたいなのでこれを機会に明言しておきたいです。

 事実それ以降One loveも書いてるし、GENERATIONだってあんなに大切に育ててくれたでしょ?これからもオーダーがあれば書かせていただきますよ。ぼくの想像を遥かに超えて大きくなってしまったけど、愛情は変わりません!ぼくが離れてから加わった9人のメンバーや独立したしゅんちゃんも含めて、この言葉に偽りはありません。

 だいたい男のアーティストはアルバム2枚まででお役御免だよ!と作家仲間の内々ではよくいわれてたし、Togetherをヒットさせて以降の彼らの勢いったらハンパじゃなかったから、いろんな人が集まって来てわけわからなくなっちゃってた。だからそれまでの人間関係が維持できなくなっていったんだ。

 ぼくは基本オートクチュール、つまりその人にしか歌えない歌詞しか書かないというのが作詞家としての哲学。本人の心のサイズを直接測らずしては創れない。だから直接コミュニケーションが取れなくなったあの頃の状態ではたとえ発注が来ても書けなかったと思う。ってか来なかったんだけど(笑)

 負け惜しみじゃなく、自分たちが世に送り出したアーティストが独り立ちしていくのを見送るなんてことができる幸運な作家は滅多にいるもんじゃない。さみしいけど、頼もしくて、嬉しかった。親心に近いかな?

 まあ、そんな流れだったからH氏もいろいろ気を遣ってくれたんだと思う。

「いやぁ、実はけんさんにお願いしたい曲が1曲ありまして・・・いや曲はかず坊なんですけどね」

 ぼくが菊池氏の曲が好きなのをよく知っているからだ。

「いや、これまたいい曲なんですよ」

ぼくが発注を受ける時のポイントが曲の善し悪しということも当然ご存知だ。この時、初めてアーティスト名をいわないH氏のそわそわした空気感を感じた。

「で、誰の歌なんすか?」
「・・・」
「え?ひょっとして」
「そうなんすよ、EXILEなんですけどね。難易度が高すぎてけんさんにお願いしようって事になりまして。まあ所属もおなじになったことだし」

 本当のところはわからない。たぶん忙しくなって書く時間も心の余裕もなかったんだろうと思う。いや、時期が時期だっただけに、EXILEファンの人たちには容易に察しがつくと思うけど内部がごたごたしてたのかもしれない。

「じゃあ曲送っていただけますか?」
「いますぐ送ります。確認したら折り返してもらってもいいですか?」

 そしたら速攻曲が送られてきた。いまはネットが普及してるから便利だし、早い。早速聴いて見た。確かにいい曲だった・・・それに音があちこち飛んでるメロのラインは確かに難易度が非常に高い。ぼくは早速H氏に連絡を入れお受けした。

「でも条件が一つあります。本人たちのインタビューが取れない以上作風は以前のスタイルに戻りますよ」
「こちらのイメージとしては砂時計のオトナ版なんですけど、そこら辺の匙加減はお任せします。で、あいかわらず急ぎなんですが」

 いまはどの仕事も時間がない。ただぼくはその時敢えて〆きりを延ばしてもらった。結果的にはものすごい勢いでイメージが浮んできて初めの納品日に間に合わせたんだけど、とにかく彼らに書くからには手を抜きたくなかったんだよね。H氏もいまではそこら辺もよく分かってて見込んで発注されてきます。とにかく有能なディレクターというのは原盤制作の司令塔、こんな風にみんなが気持ちよく、制作の温度感を下げないよう実に巧く取り仕切るものなんです。エンジニア・アレンジャーと並んで表には出て来ない名人、ですな。

 前置きが長くなっちゃったけど、そんな状況下で生まれたのがこの作品です。テレビのアニメ「ブラックジャック」の主題歌として長らく流れていましたがシングルカットはされませんでした。でも、この作品はやはり代表作の一つです。

 その理由は・・・

 まず、エロいっす(笑)
 次にリアルっす(笑)

 経験値、つまり痛い思いをしたことがない人、もしくはそういう経験をした誰かに取材をしたことがない人には絶対に書けないと思います。だからぼくは常日ごろからいろんな人の経験談を聞き出し、密かに心のメモにノートしてます。一日24時間、ぼくは取材してるようなもんですから。〆切りの合間を縫って足しげくライブに通うのも、いつ発注が来てもすぐにそのアーティストの旬な側面から斬り込めるようにいまの彼らを肌で感じ、彼らの発するコメントの一言一句を逃すことなく心を傾けて聞いています。そして、それが作品の中に反映される、って仕組みになってます。話が逸れましたが、で、

 おそらくこの二人は訳ありなんだということはおわかりいただけると思いますが、友人曰く、

「時計外したら終わりっしょ。そこがオトナの男のけじめだし、必要以上の期待を抱かせないってことはある意味本当の優しさなんだと思うな。冷たいけど将来を約束できない関係ならハンパな事はしないでしょ。その代わり時計を見る時は抱きしめた時に相手の背中で見るけど」

 だそうです。ところが一方で女性の友人曰く、

「外されるより外されない方がギリギリって感じがして盛り上がるかも。ある意味究極の純愛だからね。でもよっぽど鈍くない限り女の側から言わせてもらえれば背中で見られてることなんてバレバレでしょ。ただ本当に手離したくないなら、責めないわね。責めたら引かれるだけでしょ?その代わりちょっとでも手を抜かれたらこっちからバッサリ斬らせてもらうわよ」

 だそうです。女性の方が一枚上手、ってことなんでしょうね、思わず「ほーう」と感心しながらも、ほんの一瞬女友達がキラリと見せた不敵な笑いに思わず鳥肌が立ってしまいました。

 罪の意識に苛まれながら愛にのめり込んでいく純愛の、キレイゴトだけではない部分にまで斬り込んだ作品、こんなの後にも先にもこれ一つだけです。

 だからこの作品の中でも、そうやってお互いに気持ちの温度感を悟られないようにギリギリのところで気を配りながら限られた時間の中で繋いでいた純愛も、ついうっかりこぼしてしまった(careless)たった一つの不用意な溜め息(breath)であっさり終わってしまう。

 そして男とは身勝手なもので、自分から切る時は未練が残らないのに、相手から切られると未練たらたらになるもの。愚かですなぁ、つくづく。

 難しかったのはその男と女のすれ違いを織り込みながらエロい事柄をどうやってCoolに表現するか?ってことだったんだけど、それが、

 カラダが憶えた不規則なBreath
 もう一度すべてで感じたい 
 体温、それしか信じられず
 抑えきれない衝動で

 この下りです。特に一行目はいまでもよく書いた、自分!とほめてあげたくなります。メロの音が飛んでいる部分に不規則な呼吸のイメージを重ねた技?です。なんとなくわかるでしょ?まあ、いまのぼくには到底書けません(笑)

 問題は歌う二人に受け入れてもらえるか?

 という点だったんだけど、芸能界という制約された中で人生経験を積まなければならない彼らの境遇に重ねられる部分もあったし、4年近くの経験を積んで表現力はデビュー当時から格段に上がっていたし、あっちゃんの色気に満ちた優しい声と、しゅんちゃんのいつ壊れるかわからない脆さを感じさせるようなあの切ない声をあわせれば、多少実年齢より上の世界観でも絶対にいけると踏んで書かせてもらいました。その意味ではぼくがわがままをいわせてもらったたった一つの冒険的作品ともいえるかもしれません。

 もちろん事実四捨五入すれば30代の大人の男になっていたし、恋愛の酸いも甘いも経験しておかしくないお年頃。ちょっとしたきっかけから許されぬ恋に落ちてしまうこともあっておかしくない。

 結果はみなさんご存知の通り、報われぬ恋の顛末に苦悩する男心を見事に表現してくれました。でも、この作品がなぜあんなに受け入れられたのかは未だに自分でも分析しきれていません。一つだけ言えるのは、心の痛み、心の叫びのようなもの?が伝わったのかなぁ、とは思っています。

 長くなっちゃったけど、どうだったかな?おもしろかった?

 封印されたいまだからこそ語れる真相です。でもどこまでが本当かは、わかりませんよ(笑)

 ただこれを読んでもう一度この歌を聴くと、また違って聴こえるかも!

追伸、
 おなじアーティストさんの作品ばかりに偏らせたくないので、次回は別のアーティストさんの作品を取り上げさせていただきます。だいたい一周りしたらまた戻って来ますので御了承のほどを。なお、このシリーズの更新は不定期とさせていただいております。次回はいつになるか決まっておりませんのであしからず。