風船が空にすいこまれていく。
一つ、また一つ・・・
そうだ、風船はみな空に帰る。
そしてかつておなじ時間をわかちあった人の心の空になるんだ。
いつもはあまり気づかないけど、見上げればいつもそこにいる。
手を伸ばしても、もう決して届かないけれど、いつも黙って包んでくれる。

空、
ぼくの空、
きみの空、



Kenn in Nagoya


ぼく「なつかしいなぁ」
ボク「だろ?憶えてるかい?」
ぼく「確か名古屋の街を歩いていたら風船がたくさん舞い上がってたんだよな?」
ボク「それ以上は思い出せない?」
ぼく「ってことにしておこう」
ボク「意味深だなぁ・・・でもあの風景を見て思ったんだよね。カメラ持ってればよかったって」
ぼく「持ってなかったから心のネガに焼きつけた。ポラで撮りたかったなぁ」
ボク「これもどこかに出てきた?」
ぼく「ああ、確かVibesの曲に」
ボク「あのスーパーミュージシャンバンドか」
ぼく「そう。昔まだまったくの素人だった頃憧れていた人たちと一緒にアルバム2枚創ったんだよ」
ボク「その中の一曲?」
ぼく「そう。結構いい歌だったんだよね。野呂一生さんの曲だったっけかな?それに」
ボク「それに?」
ぼく「これもOne loveのモチーフになってる」
ボク「なるほど」
ぼく「結局、見過ごしてしまうような光景に目を留めて、どこまで憶えていられるか、なんだよね」
ボク「それがぼくのスタイル?」
ぼく「そうともいえるか、な?でもディテールは失われていくし、色彩も鮮やかな原色からパステル色に変わっていく。SX70 filmのような色だったり、ポジをネガ現像するクロスプロセスみたいなイメージだったり。そうやってハイライトの部分とかシャドウ部分のディテールが曖昧になっていくんだ」
ボク「それが想い出の正体なんでしょ?」
ぼく「ああ、その発想はもう少し後になって出てきたものなんだけどね」
ボク「想い出は人が現実の中を生き抜いていくために身に付けた術なのかもね」
ぼく「キミはあの時既にそんなことまで考えてたんだ?」
ボク「あたりまえだろ?失礼な」
ぼく「その発想を活かすまでには時間がかかったけどね」
ボク「活かしてくれて、ありがとな」
ぼく「なにをあらたまって、また」
ボク「きみの記憶はディテールを失ってしまっているかもしれないけど、これを書いたボクにははっきりと思い出せるから、あの時のすべてを。キキタイ?」
ぼく「そんな野暮なことできるかよ」
ボク「ホントは聞きたいくせに。素直じゃないんだから」
ぼく「聞かない方がいいことだってあるんだよ。知ることの幸福もあるけど、知らないことの幸福もあるからね」
ボク「その逆もあるだろ?」
ぼく「知らないことの幸福かい?」
ボク「ああ」
ぼく「それはまた今度あらためて話すことにしようや」
ボク「きみがいうなら、そうすることにしようか」
ぼく「さんきゅーな」
ボク「ああ」