Ground Zero
『Ground Zero』

on 26.OCT.2003
いまからちょうど3年前のこの日
摩天楼が消えた日の空は
前日の晩の雷雨が嘘のように
悲しいくらいに鮮やかだった
けれどこの国の人々は
屈することなく
再生に全力を賭け続ける



 初めてこのGround zeroが一般に公開された日、この場所に足を運びました。その日から遡ること7年前、まだ会社勤めの頃、飛行機を降りてワインや食事の買い付けをしていたぼくは現地での仕事の相棒、ユダヤ系アメリカ人のKarl Nackmanに連れられてWTCに連れて行かれ、映画Wall Streetの主人公にでもなった気分で新聞を腕に挟み、ホットドッグを買ってビルの中を歩く姿を写真に撮ってもらいました。

 前述の三部作の物語の第一部「Under the bridge」は、その頃の記憶を元に書かれています。だからその中に登場するカールという登場人物、ジャーナリストの祖父を持つカメラを愛する50代の男性は実在の人物です。

 突如言い渡された栄転の行く先はニューヨーク支店。主人公の慎一郎はこの街で散々な目に遭います。

 通常は家族揃って転勤するところですが、必死の思いで受験戦争を乗り切って私立の学校に入れた娘は小学校6年生。学校の規定で一緒に連れて行けば上の中学校には上がれなくなってしまいます。中学校に上がってからであれば2年間の休学が認められる。ならばそれまで単身赴任、というのが当たり前のところですが、冷め切った夫婦関係にある妻の美沙子に漠然と男の影を感じていた慎一郎は単身赴任となれば家庭が崩壊すると考え、娘の美央を美沙子の両親に預けて無理矢理夫婦でこの地へ赴きます。

 美沙子の父は元政府系金融機関に勤める銀行役員。そして美沙子はまだ幼い頃、その父の転勤先のコロンビアで爆弾テロ遭い、それがトラウマとなって口が利けなくなってしまったという辛い過去を持っています。

 そこに911。当然美沙子はテロに怯え、よりを戻した愛人と引き離された寂しさと、誰も知らないこの街で帰らぬ夫を待つ孤独に耐え切れずついに心を病み、帰国を余儀なくされます。

 そして間もなく、美沙子の父が突然彼の元を訪れ離婚を迫ります。「理由を聞かない限り黙って離婚に応じるわけには行かない」と言い張る慎一郎の目の前に出された一枚の小切手。怒りに震える慎一郎に告げられたその理由は「愛する自分の娘が実の娘ではない」という残酷な事実。

 たとえプライベートに問題があっても仕事は休めないのがサラリーマンの現実。テロで観光需要が激減し、慎一郎の努める会社でも第二次リストラが始まります。落ち込む慎一郎を休みの度に撮影に連れ出しては励ましてくれた僚友カールも、生真面目すぎて理不尽なクレームをつける顧客とトラブルを起こしてしまったがゆえにリストラのリストに載ってしまいます。しかし「辞める理由がない」と早期優遇退職制度受け入れのサインを拒み続けるカール。このままでは退職金ももらえないまま解雇になってしまう。彼に手をこまねいた支店長は慎一郎にカールを説得するよう命じます。

 ダブルパンチで思い悩み、なかなかその話を切り出せない慎一郎は期限前日カールを夕食に誘います。帰り際話を切り出そうとした慎一郎を遮るように「今日はありがとう」と握手を求めるカール。

 翌日、支店長から呼び出された慎一郎はカールがサインをしたことを知らされ「よくやった」とほめられます。すべてを見抜いていたカールは「これ以上慎一郎を苦しめたくない」とサインに応じたのです。
数日後カールは、ジャーナリストであった祖父の形見であるライカ3という古いカメラを「これをぼくだと思って持っていてくれ」と慎一郎に手渡し、ニューヨークを去ります。

 長ーくなりましたが、それでこの写真。それから一年後、Ground zeroが一般公開された日、911後の仕事の功績を認められ、本社管理職昇格の辞令を受けた慎一郎はこの現場を訪れます。あったはずのものがなくなり、そこには十字架のような雲がかかっています。カメラのシャッターを切った慎一郎は自分に問いかけます。「妻も、親友も守れなかった自分がなぜ昇格・栄転なのか?」その疑問に答えられない自分を責めた慎一郎はその場でネクタイを外します。

 まぁ、大ざっぱに言うとここまでが第1部なんですけどね?

 美沙子は叶わぬ恋を断ち切ろうと必死だった頃にたまたま慎一郎と知りあい、自分を大事にしてくれる慎一郎とつきあったんだろうね。で、出来ちゃった結婚。慎一郎はなにも知らないから当然自分の子供だと思い結婚を決意するわけだけど、美沙子は気づいていたのかもしれないよね?だとしたら彼女はすんげー悪役になっちゃうけど、その事実を12年間胸の中に隠し続けて生きて来たわけで、それはそれでとても苦しかったんじゃないかと思うんだ。

 当然夫婦仲よかった時代もあるわけだし、すれ違いの原因は浮気とかじゃなく「仕事が忙しすぎてかまってもらえなかった」ことから端を発していて、自分がかつての恋人とよりを戻したのは子供が手を離れてかつての仕事を再開したことがきっかけなわけだからすべて偶然の積み重ね。あり得ねー、とか思うでしょ?

 ところが、ここに出てくる登場人物たち、もちろん脚色はしているけど、すべてモデルが存在するんです。だから現実にあった話の組み合わせ。事実は小説より奇なり、とはよくいうけど、その事実を小説にしてみた、ってのがちょっと怖い物語なんです。

 自分でも思い出すのにほとほと疲れました。もしここまで読んでくれた人がいたら・・・

 天晴れですm(__)m