#シラスフロントロー

第33回 東京芸術大学大学美術館『大吉原展』展示

最優秀批評家賞 kojikoji

 

平均点23点(最低0点、最高55点)

 

批評コンセンサス

 

 本展覧会は、吉原を「流行の発信地」として観光客気分で観覧するという前提でつくられている。事前の広報に対しておきた反発に対応して、入口に人権についてのメッセージが掲示されていたが、展示本体は作り直す余地がなかったものと思われる。「大吉原展」というタイトルや、ポップなポスターデザイン、「遊女の一日」のサークルグラフなど、まるで夏休み気分で、そこにはリアリズムはなく幻想しかなかった。春画の展示が一切なかったことにも、この展覧会が何を隠蔽して何で表面を飾っているのかが受けて取れる。多少の批評性として、遊女が自由意志で働くとみなされて尊敬から批判に転じた趣旨の記述があったが、これは逆に現在の自己決定論の視点から見ればゆるいとしか言いようがない。全体として、日本のトップアートスクールである東京藝術大学大学美術館における展示としては「落第」であり、炎上後の多少の対応では企画、キュレーションが根本的に調子外れであることは救済できなかった。東京藝大の学生の多くが志向している現代アートの文脈から言えば、100年くらいは遅れている。なぜ、このような企画が生まれて事前にチェックがなかったのか、理解に苦しむ。日本だからこの程度の反応で済んでいるが、たとえばロンドンのRoyal Academy of Artsでこのような展示があったらもっと強い反対があったろうし、そもそもこのような企画が展示されること自体考えられないだろう。企画、広報に対する平均点は20で歴代の最低だったが、平均点が3点だけ上がって23点になったのは、合評会に参加したメンバーの実際に展示したその努力に対する敬意の現れだったのかもしれない。同じような人間に対するリスペクトが、この展覧会からはほとんど感じられなかったのが極めて残念である。

 

議論の詳細(番組アーカイブ)

https://shirasu.io/t/kenmogi/c/kenmogi/p/20240329083233