最優秀批評家賞 Manab0rg

平均92点(最低80点、最高100点)。

 

批評コンセンサス

作家としてだけでなく、インタビュワー、ジャーナリストとしての村上春樹さんの資質が発揮された一冊。早朝から楽譜読み、あるいは小説書きに勤しむ「朝4時の同僚」としての共感が立ち上がる。カラヤンやバーンシュタイン、グールドなどの大音楽家の群像に惹きつけられる。他人の生をも活かす小澤征爾さんの人間性が浮き彫りにされる。「マーラー論」として出色の出来であり、クラシック音楽の歴史におけるその位置づけが鮮明になる。コミュニケーションと音楽、言語と音楽の間の不思議な関係が随所に。日本人、東洋人に独自の悲しみの感情や、演歌の音楽的普遍性に関する言及、ミラノ・スカラ座でのブーイング、スイスのスクールの取材とレポ、「エレベーターの音楽」の恐ろしさ、マンゴーとパパイヤをめぐる愉快なやり取り、さまざまな議題をめぐる言葉のポリフォニー。2人の濃密な時間に、読者もまた、引用されている音楽をかけることで参加し、3人の時間さえつくれるかもしれない。斎藤秀雄のメソッドの巨きさから、音楽論、オーケストラ論を超えた普遍的な人間論へと導かれる。英語での翻訳タイトルAbsolutely on Music: Conversations with Seiji Ozawaは、この本の内容を的確に表している。

 

議論の詳細(番組アーカイブ)

https://shirasu.io/t/kenmogi/c/kenmogi/p/20240213092608