今日はクリスマス。私が小林秀雄賞をいただいたエッセイ『脳と仮想』は、歳末の羽田空港に朝ついて、カレーを食べていたら、となりの席で5歳くらいの女の子がとなりの妹に、「サンタさんっていると思う? 私はこう思うんだ・・・」と話すところから始まる。

 

サンタクロースが実在するかどうかという問いは、「仮想」の性質を考察することでしか明らかにできない。眼の前に赤と白の服を着た、ひげを生やしたでっぷりとした男がいたとしても、それは、女の子の仮想の中にあるサンタよりはむしろ存在として薄い。

 

今年は生成AIのhallucinationの問題がクローズアップされた。大規模言語モデルが持つ仮想には、おそらく、人間のような志向性はない。仮想の本質は、志向性(intentionality)を解き明かさないとわからない。つまりは意識の科学と同質である。

 

サンタクロースは実在するのかどうかという問いは、志向性を含む意識の謎と等価であるということになる。マルクス・ガブリエルが議論した世界の実在性とも関係する。よいクリスマスを。

 

追記。仮想はときに現実よりも人間と導き続ける。