合同批評会
#シラスフロントロー 
第6回
映画 山崎貴『ゴジラ-1.0』
平均66点(最低20点、最高90点)

批評コンセンサス

「VFXを活かした映像の素晴らしさを基本としつつ、脚本の欠点が「マイナスワン」となってはいるものの、特攻や戦後の焼け野原を経た現代の「やさしくあいまいな日本」の起源を描いた娯楽作となっている。」

VFXによる映像が素晴らしい。映画を見ていた子どもが強く反応するほどの臨場感があり、「日本映画もやるじゃん」と思わせた。ゴジラシリーズを初見だった人も楽しめた。ただ、ゴジラが海中に沈むシーンなどの「時間経過」の描き方については、キャメロン作品などに比べてもう一段の飛躍があり得たかもしれない。怪獣映画においては、人間ドラマとのバランスが難しく、闘いを前にした登場人物の言動がドラマとしては必要でも、怪獣映画としてはどうかという側面もあった。『シン・ゴジラ』が現代の「官」を描いていたとしたら、本作は大戦直後の「民」を描いている。VFXの精緻さに比較すると、脚本には疑問が残り、まさにゴジラ「マイナスワン」である。登場人物の演技が過剰で、主要な女性の登場人物が少ないなど、ジェンダーバランスの点から疑問がある。「ぼくだって結婚してあげたかった」というセリフは不適当。二人の関係も不自然。核爆発を描いているが、爆発を受けても主要人物が生き残る設定、銀座で偶然に出会う設定など、粗さが目立ち、核爆発は結局「目くらまし」のようにも感じる。『オッペンハイマー』が日本で上映されていたら、見方も変わったかもしれない。アメリカ市場で商業的、批評的にどのように受け止められるかが注目される。ゴジラが象徴するものはなんだったのか? 核の脅威か、戦没者か。ゴジラに対する敬礼が印象的。特攻の脚本上の扱いについては議論がある。ハッピーエンドに違和感。政府の不在は、現代の日本の状況に対する批評性とも受け止められる。「反語」としての表現なのかもしれない。伊福部昭さんの音楽の力に改めて心を動かされた。VFXを活かした映像の素晴らしさを基本として、脚本の欠点が「マイナスワン」となってはいるものの、特攻や戦後の焼け野原を経た現代の「やさしくあいまいな日本」の起源を描いた娯楽作となっている。

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