今井 むつみ、秋田 喜美 『言語の本質』(中公新書)


平均点76点

批評コンセンサス

「オノマトペ」は日本語で発達しており、その立場から、英語などの言語に基づく従来の言語学のパラダイムに対して新しい視点を提供している。ソシュールの言うシニフィアンとシニフィエの恣意性など、オノマトペから出発することでこそ相対化される視座がある。人工知能の研究において重要な課題であった「記号設置問題」に正面から取り組み、オノマトペが子どもの言語習得において果たす役割や、人間にユニークな推論、アブダクションのメカニズムについて著者たちの研究を含む広範な学術的成果を引用してレビューしている。オノマトペが「言語の大原則」を満たすという主張には説得力がある。「ゆる言語学ラジオ」から引用された幼児の言い間違いの事例が興味深い。脳の言語に関する情報処理のメカニズムについての記述も的確である。本書は、以上のような問題群の記述については読み応えがあり卓越しているが、一方で、タイトルにある「言語の本質」について、オノマトペからスタートするアプローチが、記号接地や推論、学習などを通した接続をもってしても、どれくらい迫れているかについては議論がある。著者たちが言う言語の「エベレスト」の頂に至る道は、オノマトペからブートストラッピングを重ねることで果たして開かれるのだろうか。

(以上の批評コンセンサスは、シラスの番組に集った人の議論から、アイデアは自由に引用するが、発言者の同一性は明らかにしないChatham House Ruleに基づいて構成しています。) 

議論の詳細は下記シラス番組にて御覧ください。