昨日、宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』を見た。『風立ちぬ』以来、10年ぶりの長編ということで事前の宣伝はなかったけれども期待が高まり、私が行った都心の映画館は満席だった。ネタバレにならないように、日本語と英語で動画をとったので後ほど上げる。

 

『君たちはどう生きるか』はHow do you liveになるのだと思うが、米国での公開時のタイトルは「The Boy and the Heron」になるという情報も伝わってきた。確かにストーリーを表しているとは言えるが、それならば別のタイトルもいいのではないかと思う。

 

村上隆さんがツイートされていたように、『君たちはどう生きるか』は、宮崎駿さんのお母さまに対する思いがあふれた作品だと思う。英語でのタイトルは、All about my motherでもいいくらいなのかと思う。

 

『君たちはどう生きるか』は、抽象絵画的なアート性があって、考えてみると宮崎駿さんの作品はつねにそのような脈動があったと思う。どのように絵を動かし、つなげていくか。クレーやカンディンスキーに通じる、高められた芸術性があるのである。

 

鳥がどう飛ぶか、車がどう走るか、水がどう流れ、あふれるか。そのような視覚情報表現が、人の心を揺らし、感動させるストーリーに乗って展開される。しかし、宮崎駿監督の芸術性は、そのような物語とともに、抽象的な次元での視覚の動き、生命のリズムの「指紋」にもあるのかもしれない。

 

『君たちはどう生きるか』では、空間のトランジションが、まるで能舞台のような密度と持続を持って展開されていて、その意味でも現代アート的な世界に近づいていると感じた。「絵師」としての宮崎駿さんの生理がそこに息づいている。

 

ある人物の生涯の一番輝いていた瞬間を描くのが能楽の精神である。宮崎駿さんの『君たちはどう生きるか』は、その意味で、「母」なる存在に捧げられた能楽かもしれない。「お母さん」が自分と同じ年齢、あるいはもっと若かったときにどうだったか。All about my mother。作品がそこに集約されていく。

 

宮崎駿さんの「絵師」としての感覚が十全に発揮され、作品全体を充たしているという意味においては、黒澤明監督の「夢」を彷彿させるところもあると感じた。『となりのトトロ』を産んだ宮崎さんの心の旅の現在地に触れて存在が揺るがされた。ネタバレのないレビューです。