映画『オッペンハイマー」が凄まじいらしいという評判だ。原爆開発のマンハッタン計画を描いたこの映画、見終わったあとなんとも言えない落ち込む気分になるらしい。世界で唯一の戦争被爆国である日本の私たちとしては、そもそも原爆を正当化するなよと言いたくなるが、重みを感じる作品のようだ。

 

ジョン・ナッシュが重要な貢献をしたゲーム理論では、核兵器は相互確証破壊(Mutually Assured Destruction, MAD)で平和を保っているなどとされるが、それが危ういことは言うまでもない。そもそもゲーム理論は大した深淵さのない応用数学で、その中では核の問題は解決できないと毒づきたくもなる。

 

イギリスのコメディアン、Diane MorganがPhilomena Cunkというキャラクターで出ているCunkシリーズの中で、世の中のことをあまり知らないという設定のCunkが、専門家に核兵器について質問する場面がある。Cunkは当然核兵器はなくなっているものと思っていて、そうじゃないと聞いて衝撃を受ける。

 

Cunkが核兵器はなくなっているという無知の設定でいくのは、普通に人間として生きていればそんなものなくしているだろうということで、それに対して専門家が冷静にいや、イギリスは核兵器持っているし、核戦争の危険はリアルだというと、Cunkが突然泣き出す。

 

 

 

世界がまだ核兵器を持っていて、核戦争のリアルな危険があると聞いて泣き出したCunkだが、「もっと明るい話をしましょう」と言って、「ABBAは好き?」と聞く。専門家が、「ああ、Dancing Queenが好きだよ」「Dancing Queenはいいよね」とこの場面は終わる。

 

 

 

 

コメディアンが、世界のことを知らない無知を装うのは、サッシャバロンコーエンが演じるAli Gにも共通する手法だけれども、Cunkでは専門家があくまでも冷静に真面目に答えてることでコメディが成立している。そして、無知のコメディが相互確証破壊というゲーム理論の底の浅さを照らし出すのだ。