今公開中の映画『アフターサン』(Aftersun)はかけねなしの傑作である。父と娘のバカンスでのできごとを通して、大切な人のことが、本当にはわからないこと、しかしその意味を、ずっとあとでも考え続けるという人生の「とき」のあり方を描く。

 

 

 

 

『アフターサン』の監督、シャーロット・ウェルズさんは、これが長編デビュー作とのこと。ビデオカメラの粗い映像と、リアルタイムの様子、そして回想シーンと象徴的なクリップを巧みに組み合わせて、過去と現在、人間の表層と深層の間を巧みに描く。

 

わけあってふだんは離れて暮らす父、カラムと、遠いリゾートでいっしょにバカンスを過ごすことになったソフィー。大人への入り口に立つ微妙な年齢の娘を前に、カラムは頼りがいのある父を演じるが、ほんとうは悩みとあやうさを抱えている。

 

ソフィーは、父カラムの様子がどこか違うことを感じているが、そのすべてをわかることはない。ずっと年月が経って、かつての父と同じ年齢になったソフィーが、ビデオの録画を手がかりに、かつての「失われた時」を取り戻そうとする。そのヒューマンドラマが『アフターサン』である。

 

『アフターサン』で娘、ソフィー役を演じたフランキー・コリオと、父、コラム役を演じたポール・メスカルの演技が素晴らしい。ああ、確かにこのような人がいると思わせるようなリアリティがある。シャーロット・ウェルズ監督の巧みな脚本、ディレクションと相まって、批評家から絶賛されたのも当然。

 

『アフターサン』は、映画という芸術形式の中にずっと眠っていた可能性を発掘した傑作といえるだろう。たとえプロットの概要を事前に知ってでかけたとしても、作品の「意識の流れ」の中で提示されるニュアンスや謎は、体験するしかない。アメリカではA24が配給とのこと。映画が好きな人は必見の作品。