雑誌「モモト」に掲載された文章です。2019年執筆

コーレーグスの謎

 

 茂木健一郎(脳科学者)

 

 習慣というものは難しいもので、なにしろみんな何気なくやっているから、無意識のことになっていて、今さら改めて聞けないということも多く、勘違いしていることもある。

 沖縄に行くようになって真っ先に好きになったのが「コーレーグス」だった。コーレーグスをかけるとごはんの味が引き締まる。それで、やたらとかけるようになった。

 食堂のテーブルの上においてあると、思わずにんまりしてしまう。すぐに目に入らないと、見つかるまでは心が落ち着かない。

 島とうがらしを泡盛につけたものらしい、ということはすぐにわかったが、その奥義はまだ極めていない。いかにもお店でつくったような、手作り感のある瓶もあるし、泡盛を注ぎ足したのかな、と感じることもある。コーレーグスが入っている瓶が時代を感じさせるものだと、なんだかありがたみが増すような気もする。

 何しろコーレーグスが好きなので、沖縄そばから、チャンプル、ポークランチョンミートなど、なんでもかけてしまう。コーレーグスをかけることで、もともとの料理の味わいも深まる。

 そんなふうに、沖縄に行く度に、いろいろなものにコーレーグスをかけていたら、ある方に「茂木さん、そんなにやたらと何にでもかけるものじゃないんですよ」と笑われた。

 「沖縄そばには使うけど、他のものにはあまり使わないですよ」とその方は言われる。

 それで、私はすっかりわからなくなってしまった。

 ゴーヤーチャンプルでも、フーチャンプルでも、ポークランチョンミートの炒めものでも、なんでもコーレーグスをかけていたのだけれども、沖縄そばにしかその方は使わないという。そういえば、まわりの方はあまりコーレーグスをいろいろな料理にかけてはいなかったような気もしてくる。

 こういう習慣というものは人によってもちろん違うのだろうけれども、沖縄の食生活としては、コーレーグスをどのような時に使うのか、よくわからなくなってしまった。

 結局、そのように言われた後も、沖縄そばを始め、あらゆるものにコーレーグスをかけ続けている。以前よりは少しだけ控えめにするようにしたけれども。

 コーレーグスは、味も好きだけれども、瓶を振ってかけるときの、あの手の動きとか感触も愛おしい。気をつけないとたくさんかけすぎてしまうけれども、そのドキドキ感もたまらない。

 何にコーレーグスをかけるのが「正しい」のか。その謎は自分の中ではまだ解決していない。コーレーグス道を極めるためには、まだまだ沖縄に通う必要がありそうだ。