昨日、観世清和さんとコシノジュンコさんのコラボの「能+ファッション」が東京、銀座の観世能楽堂で開催されました。


 そのパンフレットに、私は文章を寄稿させていただきました。


 下に掲示します。


 公演のレビューは、後ほど、日本語と英語でユーチューブにアップします。


 すばらしい舞台を見せてくださった観世清和さん、コシノジュンコさん、演者のみなさん、スタッフのみなさん、ありがとうございました。


生を美しく輝かせること


茂木健一郎(脳科学者)


 能については、学生時代からいろいろ拝見して、考えてきた。先日、私のラジオ番組に観世清和さんがいらして、その際に観世さんが口にされたことに震撼して、折に触れてそのことを考えている。「能は、その人の生のいちばん良かった時のこと、一番美しく輝いていた時のことを描くのです」。そのような趣旨のことを観世さんはおっしゃった。世阿弥の『風姿花伝』にある「花」とは何かということとも関連して、深く響く話だと思う。同じ題材に取材しながらも、近代的なリアリズムである深沢七郎の『楢山節考』と天上に至る浄化の気配がある能の『姥捨』との違い。能には近代人が油断して忘れているさまざまな秘密がある。「秘すれば花」、「時分の花」、「まことの花」といった世阿弥の言葉の意味を私たちはよくよく考えてみるべきなのだろう。コシノジュンコさんのファッションは、ジェンダーや年齢を超えて、その人らしさ、内側にある「花」を引き出してくれる。ご自身の生き方自体がパワフルで、波乱万丈で、生命の讃歌のようだ。観世清和さんの能と、コシノジュンコさんのファッションが出会った時、そこにどのような「花」が生まれるのか、その「事件」を目撃するのが本当に楽しみだ。私たちは自分の生命をどれくらいわかっているのか。人工知能の時代に、生を美しく輝かせることはどのように可能になるのか。世界に誇る伝統芸能とファッションの共鳴から学びたい。


(クオリア日記)


能とファッション茂木健一郎.JPG