福島第一原発訪問記。その1。 から続く。


 信号を曲がってからの道は2キロほど。

 このあたりも帰還困難区域なので、放置された建物や車が多い。


 原発が稼働していたころに需要があったのだろう。旅館やホテル、食堂のような建物がぽつりぽつりとある。


 震災前は、地球温暖化対策の視点からもその推進が期待されていた原子力発電。


 震災と事故によって時代の風景は一変し、今、福島第一原発は廃炉に向けた準備の作業が進んでいる。


 バスは新しく建設された事務棟に着いた。


 放射能対策もあり、窓はほとんどない建物。

 その代わりに、中央部に巨大な吹き抜けがある。


 セキュリティは当然厳しく、入り口であらかじめ届け出た氏名と、写真付きのIDで照合する。


 吹き抜けに接続して食堂があり、コンビニエンスストアも設置されている。


 作業のつかれをいやすためなのか、甘いものの需要が多いのだという。


 午後の半ばの時間帯だったが、たくさんの方々が行き交っている。


 その表情は、決して緊張をゆるめないけれども明るく、普通の工場の景色を切り取ったのと変わらないように思えた。


 しかし、いよいよ原発の本体に入る手続きをとるときには、緊張感が高まった。

 

 IDを照合し、金属探知機のゲートを通る。


 放射線量計を身につける。


 福島第一原発の敷地内は、除染作業が進んで、ほとんどのエリアは問題のない線量になっていて、通常の作業服で仕事ができるようになっている。


 それでも、放射線量は厳密に管理する必要があるから、必ず線量計をつける。


 私は物理学科だったから、物理学実験で線量計をつけるものがあったけれども、その時以来だ。

 

 主に警戒すべきはガンマ線とのこと。


 自動化されたセキュリティゲートを、暗証番号を入れて通過する。


 最終チェックを受けると、その先はいよいよ原子力発電所本体のエリアだ。


 万が一、何か健康の異常を訴える方がいらしたときに運び込まれるというERのドアの横を出て、フランスから導入されて試験中だという自動運転のバスに乗った。


 Lidarの装置が至るところについたバス。

 運転席はなく、前後が対象的なかわいらしいデザインである。


 オペレーターの方が乗っていらっしゃるけれども、基本は完全自動運転で運行される自動運転車に乗るのは初めてだ。


 あらかじめ定められたルートをゆっくりと行く。


 燃料が溶融して溶け落ち、デブリとなっている福島第一原発の一号機、二号機、三号機に次第に近づいていく。


 廃炉作業は、人類が経験したことのない初めてのチャレンジ。


 放射線量が高い場所で動作する映像センサー系、ロボットのアクチュエーター系を設計するのは、つまりは宇宙開発と同じだという。

 宇宙空間でも、高いレベルの放射線(宇宙線)が飛び交っているからだ。


 半導体が真っ先やられてしまうのだという。ゴムなども劣化していく。


 そのような試練を乗り越えないといけない。


 これからの廃炉作業は、ハイテクのイノベーションが必要とされる、高難易度のチャレンジ。

 

 その現場に、自動運転のバスで向かっていると、自分が未来にタイムトリップしているような感覚を覚える。


 取り返しのつかない過去の重大な事故。


 あの惨事に至った過信、安全神話の誤謬を修正するために、今ここで、人智を尽くした取り組みが行われているのだ。


(続く)


(クオリア日記)