日系アメリカ人のミキ・デザキ監督の『主戦場』、私はとてもよい映画だと思ったし、多くの方に見てもらいたいと思う。


「慰安婦」の問題については、日本、韓国、さまざまな国において議論がなされて、いろいろな意見があるけれども、『主戦場』は、さまざまな立場の方の肉声が聞こえて、「多声性」のある映画だと感じた。


 何よりも、それぞれの発言者の顔の表情や声のトーンから、話されていることを文字起こししたのでは伝わらないニュアンスや実感のようなものが伝わってきて、それが映画としての大きな見ごたえになっている。


 また、「慰安婦」問題についての歴史的な振り返りや、さまざまな論者が根拠としている資料についても紹介されていて、この難しい問題をふりかえる一つの概観図を提供している。


 最終的に、観る人がこの問題についてどのような見解をとるのかはその人次第だと思う。

 デザキ監督はある立場であるように推測されるけれども、素材自体は映画の中にあるのであって、それをどう受け止めるのかは観る人にゆだねられている。


 私個人の意見としては、「強制」(coercion)ということは銃剣をつきつけたり連行したりということに限られないのであって、経済的な理由や当時の社会の圧力も含めて「強制」ということを考えることが、「慰安婦」問題の核心だと思うし、それは人権や人間の尊厳といったことに関する現代的な価値観にも沿っていると思う。


 映画をつくる手続きに齟齬があったということで提訴されているようで、その詳細は私は当事者ではないからわからない。

 一般論としては、権利の処理にうるさい米国を拠点とするデザキ監督が、同意文書の署名に至るプロセスで大きな欠落があったとは少し考えにくいなと思う。


 編集のバイアスうんぬんということに関していえば、『主戦場』は、マイケル・ムーア監督の諸作品と比較しても、特に著しく偏っているという印象はない。

 むしろ、すべての発言者に対してフェアな姿勢を貫こうとされているという印象を受けた。


 映画としてもとてもよくできていて、テーマの深刻さにかかわらず、2時間(くらいだと思う)があっという間に過ぎます。


 『主戦場』、ぜひご覧になることをおすすめします。


(クオリア日記)