元横綱稀勢の里の荒磯親方の解説が饒舌で的確で素晴らしかったと大変な評判である。


なによりも、お人柄の良さ、温かさが大きな共感の輪を広げているようだ。


現役時代は寡黙な印象があっただけに、意外だと思う方が多いようだ。


私は、以前から、力士の方が、なにか感想やコメントを求められて、「はい、親方の言うとおり一生懸命やりました」「押して押して押すだけです」「一番いちばんです。」「何も結果は考えていません。」「今日は今日のことしか考えていませんでした」などと言う度に、「ほんとうはいろいろ考えているんだろうなあ」と思っていた。


力士の人生は、本場所の15日間の、一日一番によって形づくられていく。


立ち合いのその瞬間まで、相手のことや、取り口、作戦、さまざまなことを専門的、技術的に考えて感じて思い巡らせているに違いない。


なにしろ、プロフェッショナルなのだから。


荒磯親方の解説は、そのような高度な技術的思考のごく一部分だけが表れたと考えるべきなのだろう。


私は、本当はいろいろ細かいテクニカルなことを考えているのに、「はい、親方の言うとおり一生懸命やりました」「押して押して押すだけです」とだけ言う、そんなお相撲さんの姿勢、美学、哲学、生き方は素敵だと思う。


そこには、すべては土俵の上にあり、それ以外には足すものも引くものもないという覚悟のようなものがあると感じるからだ。

クオリア時評

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