大沢文夫先生がお亡くなりになったという知らせをうかがった。

いろいろなことが走馬灯のようによみがえってきた。


ぼくが大学院生の時に行っていたのは生物物理学会で、そこで、大沢先生は伝説的な存在だった。

ご自身が、「ルースカップリング」のモデルを出されるなど、やわらかな分子機械としての生物の本質をとらえる仕事をなさっていたことと、「大沢牧場」と呼ばれて、柳田敏雄先生を始めとする多くのすぐれた研究者を育てた、そのおおらかなお人柄が素敵だった。


ある時、自分が主査の自分の学生の博士論文の審査の日だと忘れていて、大沢先生、お待ちしていますと呼びにこられて気づいたという。そんなおおらかな、ゆったりとしたところがあった。それで、お弟子さんたちに愛された。


大沢先生は、いつもそよ風のようにさっそうとしていて、それでいて物事の本質を見抜く鋭い目をお持ちだった。


やさしいと同時に、怖い存在だった。


脳科学を始めた後、一度、大沢先生の前でお話したことがある。


確か、生物物理夏の学校か何かだったと思う。


バイオロジカルモーションの話をして、男か女か、どれくらいの年齢かということまでわかることがあると話した。


そうしたら、大沢先生が立ち上がって、ご自身がハワイに行かれたとき、大沢先生が海岸を歩いていたら、地元の人かなにかに、歩き方で研究者とわかる、しかも、大阪大学の先生だということまでわかると言われたとか冗談を言われて、みんなも笑って、ぼくも笑った。


大沢先生が生涯追い続けたやわらかい生物像は、本当に本質だと思っています。


いつまでも、その面影は、心の中にあざやかにあります。


心から、ご冥福をお祈りいたします。