ぼくは会議に来ると、思い切りさぼるか、それともまじめに出席するか、あるいは適当かのどれかになる(当たり前か、笑)。


 今回のWorld Government Summitも、自分の出番は別として、どうしようかなと思ったけれども、朝ごはんを食べたあと、いちおう、朝9時からオープニング出てみるか、と仏心を起こして、ぱっとでかけた。


 おかげで朝のランニングはスキップ。


 会場に行くと、もう人がうわーっといて、それで会場入口とは別にセッション入り口でもネームタグをスキャンして、さすがセキュリティが高いなあと思ったんだけど、その係のおねえさまが、スキャン終わったあと、「エンジョイ!」と言ったのは素敵だなあと思った。


 はいったら、すでにアラビア語でずっとしゃべっていて、その方はUAEの大臣なのだった。


 アラビア語のスピーチをちゃんと聞くのは初めてだったのだけれども、なんか音楽として好きだなあと思った。

 それで、ときどき、「ハイパーループ」とか、「スペースX」とか、「イーロン・マスク」とか、「フェイスブック」とか、「グーグル」とか挟まれるので、そこだけわかる。


 はっとして、こんなことではいけない、と思って、手元のiPhoneでグーグルトランスレートをいじっていたら、アラビア語はダウンロードしないとダメで、ダウンロードしたら、ちゃんと動き始めて、スピーチを断片的にではあるけど英語に翻訳してくれる。


 でも、なめらかにとはいかないので、席にあった同時通訳のヘッドフォンをしたら、チャンネルがたくさんあって、アラビア語、英語、フランス語、スペイン語、あとわからない言葉二つで通訳されていた(ペルシャ語とかかな?)。


 実は最初のセッションに来た潜在的な好奇心というのはダボス会議を創始したシュワブさんが出ていたからで、大臣がアラビア語でスピーチしている間、ずっと椅子に座っている。


 ぼくは少し遅れてきたから、シュワブさんのスピーチは終わってしまっていたらしい。


 それで、大臣が話し終えて、シュワブさんが話す番になって、ようやくぼくの好奇心は満たされた。


 スイスの方だけど、どんな英語を話されるのかなと思ったのだ。


 そうしたら、ちゃんと、独特のリズムの、ユニークな英語だった。


 考えてみたら、そんなことをしなくても、ユーチューブか何かでシュワブさんのスピーチ聞けばわかるんだろうけど、とにかく、イギリス風のオックスブリッジの英語でも、アメリカ風の、ブリティシュに薫陶を受けたぼくからするとなまっている英語でもなく、独特の英語でも、ダボス会議という最高の付加価値をつくれる、つまり英語の話し方なんて通じればどうでもいいんだ、ということを生身のシュワブさんで確認して満足だった。


 続いて立ったのがぼくにとっては謎の人だったんだけど、有名で人気のある方らしく、トニーロビンスさんという、アメリカから来たリーダーシップを指導する人だった。


 TVエヴェンジェリストのように、畳み掛けるような早口であるきまわりながら、途中、聴衆を立たせたり、となりのひととエキササイズをやらせたり、「私の言うとおりだと思うひとは手を上げて「アイ!」と言って」「さあ、もっと大きな声で言って!」という感じで会場を巻き込んでいくタイプで、昨年は18カ国で108講演かなにかをしたというから、とにかく世界的な売れっ子でいらっしゃるのだろう。


 ぼくはこういうノリは比較的苦手だなあと思いながら(笑)、素直にお付き合いしていた。


 となりの席に途中から来たおじさまが、背が高い人だったんだけど、トニーロビンスさんの呼びかけにいちいち笑ったり、同意を求めるように私の方をみたり、大声で「アイ!」と言ったり、とにかくロビンスさんの話しに共感しまくりみたいな感じで、ぼくのその圧力を受けて、さりげなく、共感していないわけではないですよ、みたいな感じで反応していた。


 周囲を見ると、カンドゥーラを来ている方々などは、立ち上がりましょうと言われても座ったままでスマホをいじっていたり、反応はそれぞれだったんだけど、トニーロビンスさんはそんなことを気にせずに、「アイと言って!」と続けていくのだった。


 あの、めげないエネルギーが凄い。


 凄いことに、トニーロビンスさんはさらに加速してノリノリで、「ぼくはふだんは15時間やるんだよ!」とか言いながら、予定を30分もオーバーしてしまって、次に話すのがフランスの大臣だったから、だいじょうぶかなあと心配になった。


 そうしたら、さすがフランスのエスプリというか、壇上に来てすぐに、「私のスピーチは15分で十分です」とかなにかジョークを言って、それで至って真面目な話をされたのだけれども、大臣もどうも少し時間をオーバーされたみたいで、全体的に大変だなあと思った。


 もういいかなあ、とホテルに帰ったのだけれども、トニーロビンスさんの後遺症が残っていて、世界的なマーケットをとるやり方としてああいうのもあるんだなあ、でも、ぼくはちょっと苦手だなあと思ってお昼抜くつもりでいたら、お腹が空いて仕方がない。


 それで、ちょっと迷ったんだけど、お昼べて少し昼寝してしまおうと思って、水際のメキシコ料理やさんに行って、レモネードとタコスを頼んでたべて部屋に帰って寝てしまった。


 このところ、眠るときにはBBCのiPlayerでradio 4のニュースを聞きながら眠ることにしている。このiPlayerのアプリは凄まじく良い出来で、放送が終わった番組はすべて聞くことができるようになっている(29日間だったかな)。


 唯一の不満は、Shipping forecastを聞くときに、「本体」しか聞けないことで、その前のSailing byから聞きたいのに、と思うことで、そうですね、こんなこと、BBC radio 4のオタク以外にはどうでもいいことですね。すみませんでした。


 このところ、イギリスはいよいよ迫ってきたBrexitの問題などで大荒れで、その偶有性の嵐の話を聞きながら眠りにつくのが、外は吹雪いてるのに暖炉の横でまどろむというようなコントラストがあって心地よい。


 それで、目が覚めて、さて、と思ったけれども、自分のトークを一応リハーサルして置こうかと思った。


 ぼくは常に即興で、原稿を書いたりしないし、言うことも毎回変わるのだけれども、それでも、一応パワポの流れに沿ってしゃべっておくと、スライドの順番とかここで先食いしちゃいけないとかここでこれを言おうとか思いついてそれなりに役に立つ。


 あと、ぼくは無駄が嫌いなことがあって、パワポをキーノートに取り込んで、キーノートで喋ったのを録音して、そうすると動画で吐き出してそれをユーチューブに上げられたりするので、リハーサルをかねてそれをやって、その動画を公開したりすると無駄がない気がして、過去に学会発表とかで何度かそういうことをしたことがある。

 

 それで、今回もそれをしようかな、と思ってやってみたんだけど、テイク3までやって、まあ、いいか、と思ってそれでやめてしまって、あとは行く準備をして会場にいった。


 今回、メイン会場ではぼくの裏番組としてフランシス法王のビデオメッセージとか流れていて、そっちにお客さん行ってこっち来るかなと思ったんだけど、それなりに入っていた。


 それで、現地の新聞やネットにはぼくが二番目に話すことになっていたんだけど、なぜか最後になっていて、いろいろ世話になっているファラーさんに、あれ、スケジュール変わったんだ、と言ったら、ファラーさんが「いやあ、大臣とか予定が変わるからね」と言ったけど、おそらくぼくのセッションには大臣関係ないと思った。


 それで、ぼくの前のパネルディスカッションと次のウェルネス・インシティチュートの方はものすごく真面目なトーンで話していたんだけど、ぼくはどんな話でも笑いをとらないといけないと思っているところがあって、出番になったらそのつもりで行った。


 テーマはikigaiだったんだけど、とにかくローカライズしようと思って、Five pillars of ikigaiのところで、、Five pillars of islamに言及したり、ぼくのikigaiの本は30カ国28言語で出版の予定だけれども(すでに刊行されたのがどれくらいの割合か把握していない)、28言語の中にアラビア語も含まれる、ということをレーザーポインターも使って強調してみた。


 一番笑いをとるチャンスは相撲のところで、People have the misconception that sumo is about two fat men bumping into each other. と言って、そこで間をおいて、それから、肩をすくめる感じで、Well, you do have that. と言って、またちょっと間をおいて、But in addition to that, you have such mastery of physical movements, rich and deep culture, and may more. みたいなことを言ったら、どっと受けたので良かった。


 一番心配だったのは終了後のブックサイニングで、誰も来なかったらどうしよう、と思って、講演の最後に、「終了後、ブックサイニングをします。イラストも描きます! よかったら来てください!」と言った。


 終わってブックサイニングのところに行ったら、ものすごい列が出来ていたので、びっくりした。

 一人ひとり名前をお聞きして、ねこの絵を中心に書いた。


 ねこが好きな人がたくさんいるんだ、ということを知った。


 アラブの名前も少しずつ覚えていった。「モハメット」には、「二つのm」の人と「一つのm」の人がいるんだとか、「希望」という意味の名前とか、「永遠の生命」という意味の名前とか、メッカの近くにある聖書にも出てくる山の名前とか。


 ネームタグにアラビア語も書いてあるから、「アラビア語が書けなくてごめんなさい」と言ったら、お手伝いをしてくださっている女性が「練習すれば書けるわよ!」と言う。


 その人は、どうやら日本語ができるらしく、時々日本語を挟んでくる。


 驚いて、どうやって勉強したんだ、と聞いたら、アニメだという。

 特にドラゴンボールが好きなのだという。

 なんと! 恐るべし、ドラゴンボール!


 サイン会は最初18時から20分と言われていたんだけど、ずっと列が途切れずに、ねこをたくさん書いた。


 ようやく終えたら、スタッフ用に名前を入れて書いてくれと言われて、10冊渡されて、ひたすらねこを書いた。


 それが終わったら、まだ残っている本にすべてサインしてくれというから、また一生懸命ねこを書いた。


 一体、Ikigaiの本は何冊用意したのかと聞いたら、150冊だという。

 ここには何冊残っているんだ、と聞いたら、45冊だという。

 ということは、一般の参加者に、105冊サインしたことになる。

 ひええ。

 というか、にゃああん。


 「イラストを描きます」という訴えが聞いたのか、それとも話がおもしろいと思ってもらえたのか、とにかく誰も来ないサイン会にならなくてよかった。


 ドラゴンボールが大好きなその女性が、「今まででいちばん多かったわ。これまでは、来たとしても最高で45人くらいだったから」と言った。


 お世辞とか入っているかもしれないけど、とにかくよかった。



 ドラゴンボール大好き女性は、UAE政府で働いている。


 時計を見たら、19時28分。

 一時間半近く、サインを続けていたことになる。



 ひと仕事を終えた気がして、ふらふらホテルに戻って、ほっとしてレストランに行ってビールを飲んだ。


 明日は大臣主催の夕食会だけだなあ、と思っていたら、アラーさん(UAE政府で働いている女性)から、明日、学生向けの講演会をしてくれとメールが来ていた。


 またいろいろ変更になるかもしれないけど、いいよ、と応えた。


 スライドなしで、20分だという。


 どういう感じなのだろう。現場に行ってみないと、よくわからない。


 まあ、明日は明日の風が吹くさ。


(クオリア日記)


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