ポーランド滞在中にワールドカップ日本対ポーランド戦を迎えるという、ふしぎなめぐり合わせ。


最初は代表ユニフォームを着てホテルの部屋で応援していたが、試合展開を見て、近くのスポーツバーに向かった。


ただ、あれだから、代表ユニフォームの上に、黒いセーター(ジョブズ風)を着て、「隠れジャパン」になってでかけた。


よく見ると、セーターの襟元から、代表ユニフォームの青と赤い線が見えている。


胴体隠して首隠さず。


ひええ、と思いながら、緊張してスポーツバーに入った。


案の定、家族連れやカップルも含め、いろいろな人がいたが、いちばん圧力を感じたのは10人くらいの男性のグループで、ビールを見ながらモニターを注視している。


ポーランドのチャンスが来る度に、「うぉー!!!!!」と雄叫びをあげている。


気持ちはわかる。ポーランドはここまで2敗。

この試合くらい勝ちたいのだろう。


私は、小さくなって、ビールを飲みながら、日本代表を応援した。


しかし、身体は正直なもので、日本が敵ゴールに迫ったりするたびに、思わず「あー」とか「おー」とか声が出てしまう。


腕にも力が入ってしまう。


その度に、シークレット、シークレット、忍者、忍者、青い忍者、ニンジャブルー、と自分を落ち着かせる。


東アジア系だとはわかるだろうけど、日本までとは同定されない(かもしれない)だろうな、まさか、代表ユニフォームを着て応援しているとは思われないだろうな、とずっとドキドキしていた。


心なしか、店員さんの私を見る視線も鋭い(気がする)。


しかし、ハーフタイムにビーフバーガーを頼んだら、一番怖そうだった兄ちゃん店員さんが、「チーズもいるか?」と親切に聞いてくれた。


よかった、「隠れジャパン」とばれなくてよかった。


というか、お客さんとしてふつうに接してくれたのだろう。


サンキューフォーユアカインドネス。


ジェンクイェンなんとかかんとかバルゾ。


「ジェンクイェン」は「ありがとう」で、「バルゾ」は「とても」。


だけど、ポーランド語で「親切」はなんというのかは知らん。


ポーランドがついに得点した時、スポーツバーが揺れるような大歓声が広がった。

地響きがする感じ。

魂の震度。


カメさんは、水にもぐりますう。


いちばん首をひっこめてしかししっかり日本代表を応援していた。


コロンビアセネガルの展開も時々画面に出て、それに基づく判断があったのだろう。


西野監督が指示されたのだろう。


0-1で負けている状況で日本の選手たちが「パス回し」の選択をして、選手たちがピッチの上でパスをはいっ、はいっ、はいっとし始めた時間帯がいちばん緊張した。


もしポーランドに攻撃くらって0-2になったらアウトだし、そもそも、このはいっ、はいっパス回しを周囲のポーランドの人たちがどう思うかだし。


しかし、1点勝っているから、心が広くなっているのか、周囲のポーランドの人たちは、「おうおう、まあよい」みたいな感じでゆったりと試合を見ていた(ような気がする)。

試合終了。


なぜか頭が白くなってぼんやりした。


ポーランドのテレビが、スタジアムの日本人サポーターを映していて、その人たちがスマホかなにかを見て喜んでいたので、決勝トーナメントに進出したのだと悟った。


ピッチの上では、西野監督が選手たちの健闘をたたえている。


スポーツバーを出たところ、中継の看板の前で、ようやくカミングアウトして、ユニフォーム姿になった。


そのまま、川の方に向かった。


雨が強くなってきている。


日本代表ユニフォームを着た男が、ポーランドの古都、クラクフの川沿いを歩いている。


我はいかにして隠れジャパンになりしか。


雨が降っているくらいじゃ、隠れジャパンは負けない。


そのまま川沿いを走って行こうかと思ったが、雨が半端ないって、というくらい降ってきたので、くるっと180度回転した。


そして、うぉー! と小さな雄叫びをあげつつ、隠れジャパンは自分のホテルの方に向かって走っていった。


日本代表、おめでとう!

決勝トーナメント、おめでとう!


隠れジャパンは、ポーランドの地で、密かにみなさんを応援しておりましたぞ!


(クオリア日記)


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