リヒャルト・シュトラウスの『薔薇の騎士』二幕、婚約の印の銀の薔薇を持って使者が登場するシーンは、掛け値なしに素晴らしい。次第に高まる期待、そして涙が出るほど美しい高揚。しかし、その気分も一瞬で終わりすぐ移ろいゆく。このオペラはephemeralを描いた作品である。人生は移ろうから美しい。


タルコフスキーの『惑星ソラリス』は冒頭から最後まで素晴らしいが、詩的な興趣が最大に達するのは、浮遊のシーンかもしれない。ブリューゲルの雪上の狩人の絵がモティーフとして引用され、現実の軛から一時的に解放された魂の自由を描く。忘れられないシークエンス。全編の最大の救いである。


ビクトル・エリセ監督の『エル・スール』は、父親に対する娘の思慕の描かれた傑作だけれども、その父親と最後にレストランで食事するシーンの、白い光がずっと心に残る。最後に手を挙げて別れを告げる父親が、娘が見た最後の姿となった。エリセ監督は3作しか長編がなく、すべてが素晴らしい。


ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』でアナ役を演じたアナ・トレントは素晴らしい。この時7歳だった。詩的興趣に満ちたこの映画で衝撃的なのは、映画を見て以来ずっと想像していたフランケンシュタインにアナが本当に会ってしまう瞬間だろう。冒頭の絵画と音楽からずっと至福の作品。


マルセル・デュシャンの『大ガラス』(he Bride Stripped Bare by Her Bachelors, Even)は「泉」と並ぶ作家の頂点で、目にすると立ち尽くしてしまう。ぼくが気になるのは光円錐が重なっているように見えるところで、世界の奥義を表現しているように感じてしまうのだ。東大駒場にも再現がある。


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