中心を外さずに。第99回。


 

 先日、あるシンガポール在住のアメリカ人の友人と話していたら、お父さんはカリフォルニアで日本文学を教えていて(源氏物語とか枕草子とか)、それが、彼が日本に来るきっかけになったと言った(日本を経由して、彼はシンガポールに行った)。


 へえ、と思って、じゃあ、お父さん日本語できたんだ、と言ったら、いや、そんなに出来ない。英訳された源氏物語や枕草子を教えていたからと言った。


 それから、彼は、源氏物語はおそらく世界最古の小説の一つだから、などといろいろ言ったけれども、ぼくはそうか、英訳されたものを元に教える、というキャリアがあって、でも、たしかに、それで十分なくらいの深みと奥行きが「英訳された源氏物語」にはあるんだ、と思った。


 「英訳された源氏物語」が、その中で一生泳いでいられる水たまりのように感じられた。

 世界にはそれくらいそのような水たまりがあるんだと思う。


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