中心を外さずに。第83回。

 アルベルト・アインシュタインは、とにかく自由で独立した人で、軍事パレードなどで並んで歩いているだけで軽蔑する、という人だった。

 そのアインシュタインが、ナチスが原爆をつくるかもしれないという恐れから、1939年、アメリカ大統領のセオドア・ルーズベルト氏に原爆の可能性を示唆する手紙を送ったのは、生涯でも最も困難な選択の一つだったのだろうと思う。

 そして、その後、アインシュタインは、ずっと後悔し続けたのではないか、未解決の倫理的ジレンマとしてそのことを抱え続けたのではないかと思う。

 アインシュタインのジレンマには、個人と国家の関係、自由と戦争の間の矛盾が今でも象徴され、封じ込まれている。


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