中心を外さずに。第82回。

 
 最近読解力がどうのこうのというニュースを時々見るけれども、読解力とは何なのだろうと思う。


 文章によっても違う。

 ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』は、あまりにも難解なので、イギリスの情報当局は、これは何らかのメッセージが暗号で書かれたものだと確信したのだという。

 ユリシーズはオデッセイにインスパイアされた小説だが、ジョイスがこの題材を選んだのは、オデュッセイアが、もっとも人間の多面性を表したヒーローだからだという。

 初期の短編集『ダブリン市民』からして、すでにタイトルを『ユリシーズ』にする構想があったらしい。

 つまり、『ダブリン市民』の中に出てくるさまざまな人物が経験することは、メタファーとして、単一の人物オデュッセイアにとっての多様な経験ともとらえられる。

 そして、『ダブリン市民』の各短編は、必ず、あるepiphany(啓示、気付き)で終わる。

 読解力とは何かということを、そう簡単に言うことはできないと思う。



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