北朝鮮のミサイル開発は非常に憂慮すべき事態で、特に、ゲーム理論的に解析して、打つ手がきわめて限られる(あるいは存在しない)のが困る。

核兵器については、「相互確証破壊」(Mutually Assured Destruction)がゲーム理論のモデルとして知られている。これは北朝鮮についてももちろん当てはまるが、従来の国家とくらべて北朝鮮のふるまいがより不確実性が高いと認識されていることが、状況を複雑にしている。

融和ゲーム(Appeasement game)
すなわち、条件を示して相手の譲歩を促す戦略は、失敗したと広く認識されている。北朝鮮は、核やミサイル開発を中止する素振りを見せながら、結局は一環してより高度なミサイル、核開発を続けてきた。

また、軍事オプションは、あまりにも犠牲、影響が大きく、実際には取りにくい、という分析が広く共有されている。

そんな中、北朝鮮との交渉をゲーム理論的に解析するモデルとして、「承認ゲーム」(recognition game)がある程度有効かもしれない。

(Ringmar, E. (2002). The recognition game: Soviet Russia against the West. Cooperation and Conflict, 37(2), 115-136.)



論文のpdfは、上のresearch gate以外にも落ちています。google scholarで検索ください。

この論文では、冷戦期に、ソ連の核開発が持った象徴的な意味は、ソ連という国家の正統性を確立し、西側に国家としての存在を承認させることが本質的だったと指摘している。

この分析は、近年の北朝鮮の行動を分析する上で助けになると感じるのでここに紹介する。

ヘーゲルやホッブスを引用した読み応えのある論文なので、興味がある方は読んでみてください。

ちなみに、この論文の分析を当てはめれば、(そのような方向性に対する政治的抵抗の強さにもかかわらず)、日本やアメリカ、韓国など、現在北朝鮮を国家承認していない国(が北朝鮮を国家として承認して国交を結ぶことが、北朝鮮のふるまいを安定化させるためには必要なステップということになる。

(北朝鮮を承認している国家のリスト、その経緯については 朝鮮民主主義人民共和国の国際関係 が詳しい)。


本来ならば、朝鮮半島に核、ミサイルを持った独裁国家が誕生することは避けられるべきことだったが、事態がここに至った以上、とりうるオプションは極めて限られ、以上の分析は一つの道筋だと考える。

承認ゲームの分析を敷衍すれば、体勢の異質性にもかかわらず、北朝鮮を国家としてもっと早く承認して、国交を結んでいれば、ここまで先鋭的に核、ミサイル開発を行うこともなかったのかもしれない。歴史に「もしも」はないのだけれども。


下の図は、Ringmar, E. (2002). The recognition game: Soviet Russia against the West. Cooperation and Conflict, 37(2), 115-136.より引用。



承認ゲーム.png