映画『花戦さ』は緊張感に満ちた、極上の芸術エンターティンメントである。

 登場人物は、いけばな池坊の池坊専好(1536-1621)、千利休、豊臣秀吉、織田信長、前田利家、石田三成などと豪華。それぞれの配役は、野村萬斎、佐藤浩市、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、吉田栄作と素晴らしい役者さんたち。その他、吉右衛門、れん、浄椿尼を高橋克実、森川葵 、竹下景子が演じている。

 『花戦さ』は、池坊専好が織田信長に呼び出されて岐阜城で花を活けるところから始まる。その後、常に武士の権力と花を通した祈りの緊張関係が描かれる。
 さらに、そこに千利休と豊臣秀吉のあまりにも有名な対立が加わって、立体的なドラマが生まれる。

 貫かれるのは、花に託した祈り。戦乱の世、命を落とす人たちも多かった。池坊のいけばなは、常に、生きとし生けるものへの祈りとして活けられてきた。
 織田信長、そして豊臣秀吉という、その人間存在を白い閃光で焼き尽くすような衝動で生きてきた武人を前に、花の祈りがどのように通じるのか。
 花の祈りには、天下人の心をも動かす力があるのか。
 
 池坊専好の野村萬斎の演技が光る。狂言で培った所作、身体の動き、そして顔の表情を通して、池坊専好という人物の内面の激動を見事に描く。 
 市川猿之助、佐藤浩市の「動」と「静」の対照に、野村萬斎の変幻自在が重なって、忘れられないドラマが生まれた。

 池坊の次期家元、池坊専好(四代)もある場面にカメオ出演しているとのこと。
 私は、映画の流れについ夢中になって、見逃してしまった。

 花に託した、生きとし生けるものすべてへの祈り。小さく弱いものに目を向ける心こそ、本当は強い。

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