しばらく前から話題になっていた、
「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」の資料を拝読いたしました。

http://www.meti.go.jp/committee/summary/eic0009/pdf/020_02_00.pdf

 経済産業省の若手官僚の方が、有識者との意見交換を経て、つくられたペーパーのようです。

 このような問題を考え、国としての方針を探ることは、有意義だと思います。
 また、この資料の中で指摘されている日本の将来の問題は、重要な課題だと考えます。

 その一方で、使われている概念や、将来へ向けての予測モデルが、十分な深さ、抽象性、定量性、システム性を欠いているように感じました。

 これは、資料が日本語で書かれている、ということと関係があるかもしれません。

 イノベーションにかかわるさまざまな概念、モデルは、近年の日本におけるイノベーション力の低下を反映して、日本語の情報圏では流通しない傾向があります。

 もちろん、経産省の若手官僚の方々は英語が堪能なのだとは思いますが、この資料からは、沈滞する日本のマインドセットを今ひとつ突き抜けられていない印象を受けました。

 現代における戦略、インテリジェンスが語られる文法、図式は、この資料とは違うものではないかと私は個人的には考えます。
 人工知能による産業構造の変化はもちろんですが、Uber, Airbnbなど、日本ではなかなか本格的に入ってこない新しいビジネスモデル、放送と通信、さらには教育や就業のあり方などについての革新的な考え方、実践事例への目配りがあったらよかったな、と思います。その中で、国家、中央官庁の役割についての自省があったら、もっと良かったでしょう。

 Elon Muskのように、serial entrepreneurとして次々と新事業を立ち上げてしかけてくる個人がイノベーションの主体となって国を成長させているアメリカの事例、あるいはシンガポールや香港、中国の一部など、国境を超えたイノベーションの循環が起こり、学術機関にもフィードバックしているエリアに比べると、語られている文法全体が、沈滞的であるようにも感じます。
  
 もちろん、以上のような印象は、私の読み取り能力の欠如によるものかもしれませんし、資料の趣旨を私が読み違えているのかもしれません。

 いずれにせよ、このような試みをすること自体は素晴らしいことだと思いますし、これからもぜひ、ベスト・アンド・ブライテスト、ベストプラクティスへの志向を忘れずにがんばっていただきたいと思います。
 応援しています。

 下記は、当該資料より。このような事例の分析がもっとボリュームがあり、さらにそれらの上位概念の形成や、定量的なモデルの提案、さらに政策アクションの構築があったら、もっと良かったと思います。


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