よく勘違いする人がいるけれども、個々の議員は、それぞれの「所属」政党の方針に必ずしも従う必要はない。

だから、国政選挙で、各党派別の当選数が決まったとしても、その後に国会に提出される法案についての賛成、反対は、それぞれの議員が理性や良心に基づいて判断すべきであって、単なる数合わせで決まることを「民主主義」とは言わない。

以上のことは、常識だと思っていたが、SNSなどの書き込みを見ると、この根本がわかっていない人が多いようなので、ここに改めて記しておくことにする。

たとえば、安保法案や共謀罪などの、国の成り立ちを変えるような法案については、それぞれの議員が自分の理性と良心に従って判断すべきなのであって、最初から執行部の言う通りに投票する議員は「ロボット」であっても、人間ではない。

そのような議員が増えるほど、代議制に基づく民主主義は、実質において機能しなくなる。

与党の議員の中から、政府提出法案に反対する人が出てもいいし、逆に、野党の議員の中から、政府提出法案に賛成する人が出てもいい。

そのような、個々の判断の積み重ねを通して初めて民主主義は成り立つのであって、そうでなければ、国会は、その機能を果たせない。

ここで、アメリカの連邦議会における投票行動をいくつか見ていこう。


いわゆる「オバマケア」を書き換える法案「H.R. 1628: American Health Care Act of 2017」についての、民主党、共和党の投票行動は下の図のようだった。


repealobamacare2017.png

さすがに、民主党員で賛成した人はいない。一方、共和党員でも、約10%の人たちは反対している。

次に、北朝鮮に対する制裁の大統領の権限に関する法案「H.R. 1644: Korean Interdiction and Modernization of Sanctions Act」の投票行動を見てみよう。


northkorea2017.png


これについては、共和党の一人をのぞいて、ほぼ全会一致で賛成している。

ある種の司法職員の保護に関する法案「H.R. 1039: Probation Officer Protection Act of 2017」については、民主党、共和党とも党の方針に対して「造反」する議員がちらほらいるが、全体としては賛成多数で可決している。


probation2017.png


以上の三つの投票行動は、https://www.govtrack.us/congress/votes で短時間にスキャンした中で拾ったもので、もっと丹念に拾えば、党の枠と関係ない投票行動はさらに見つかるだろう。

アメリカ議会では、個々の議員がそれぞれ投票行動をするというのが前提になっているから、自分の州の議員の投票行動についてアラートし、議員に働きかけるスマートフォンのアプリがあるくらいである。

イギリス議会についても、同様の統計があるはずであるが、今はここに引用する時間がないので省略。

もっとも、アメリカでも、党派を超えた投票は減少の傾向にあることが問題視されていて、この問題についての論文も出ている。
PLoS ONEなので、無料でアクセスできるから、興味がある人は読むと良い。


いずれにせよ、自民党a人、維新b人、公明党c人、民進党d人、共産党e人、その他f人という議会の構成があった時に、(a, b, c, d, e, f)の数字のみで重要法案の通過が決まるというような事態は、代議制の民主主義が想定していることではないし、そうであってはいけない。

もちろん、個々の議員が、本当に各法案を精査して、自分の理性と良心に基づいて賛成、反対を決めているのならば、私の認識不足であるが、日本の国会については、そのようには見えない。

いずれにせよ、前回の国政選挙で(a, b, c, d, e, f)の数字が決まったから、その後その数合わせの通りに法案が通るのは当然だという議論は、稚拙で、暴力的で、代議制の本質を全く理解していない愚論であるということは、ここで確認しておきたい。

日本の議会における投票行動を、米国、英国の議会における投票行動と党派性(partisanship)の視点から統計的に分析したデータがあれば見てみたいが、今は見つける暇がなかった。どなたかご存知でしたら、ご教示ください。

また、このようなことを調査、考えることは、小学校から大学まで、すぐれた課題だと思うので、興味のある学生さん、先生はぜひやってみてください。