あれは、私が小学校の4年生か5年生くらいのことだったか、不思議なものが日本で流行り始めた。
やたらと派手な電飾のついた自転車が、少年たちの心をとらえたのだ。
時代は、1970年代の前半。あの頃、日本は、まだまだ元気だった。その元気さの中に、あのような発散するエネルギーがあったのだろう。
今考えても、なぜ、あのような過剰な自転車が少年たちの心をとらえたのか、よくわからない。一つ要因があるとすれば、派手なデコレーションを施したトラックが当時世の中で目立ち始めて、その影響が少年たちの自転車にも及んだのかもしれない。
菅原文太さん主演の映画『トラック野郎』シリーズがヒットするのは、私が中学校に入ってからのこと。
映画化される前の社会現象として、すでに「デコトラ」は認知されていたのだろう。
デコトラならぬ、デコチャリ。
それは、およそ、「実用性」からは遠い代物であった。
茂木健一郎『ありったけの春』より。
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