江本勝さんの『水からの伝言』をこのところ文字列としてツイッター上で何回か見て、なつかしく思って、昔アマゾンに書いたレビューを見つけ出してここに転載します。

ぼくはアマゾンに書評を書くことは滅多になくて、今までおそらく数冊分しか書いていませんが、江本さんの本は当時話題になったので、書く気になったのだと思います。

オリジナルな書評は、2002年8月5日にアマゾンに投稿されたものです。

水からの伝言書評.png


江本勝『水は答えを知っている』 レビュー 茂木健一郎

二つの点で気になったことがあったので、書きます。
まず
この本はカテゴリーの間違いから
スタートしています。
水に「おはよう」、「ばかやろう」と言う、
あるいはモーツアルトの音楽を
「聴かせる」、という表現がすでにカテゴリ
ーエラーです。
なぜならば、「おはよう」、
「ばかやろう」、「モーツアルトの音楽」
という意味自体が、
人間の脳についてのみ成立するカテゴリーであって、実際に水に
作用しているのは単なる「音波」だからです。
それならば、最初から「音波」の作用として問題を立てれば良い。
このようなカテゴリーエラーがいかにヤバイかは、
「おはよう」と「ばかやろう」の意味が日本語と
逆転している言語が世界のどこかにあったら、と考えれば
わかるでしょう。
科学的根拠は0に近い。
第二に、この本には、
「他者性」への感受性が欠落していることです。
自分が善意を持っているから、あるいは何かを美しいと
思っているから、他者もその感受性を共有して
何らかの感応を示すべきだ、そのような世界は心地よいと
思うのは、ファシズムです。
ましてや、相手が水だったら、なぜそんなものが自分と同じ感性を
共有していると思えるのでしょうか。
そのような心の持ち方は、
世界の中には自分のことなど気にもかけない、
絶対的に異質な他者が存在するのだという
事実を許容できない、小児的心性です。
世界には自分と感性を異にする絶対的他者がいる、と考える
方が、この本のように水まで人間的感性のsmall worldにとりこんで
しまおうとするよりは、よほど深い楽しみのある世界観に
到達できるでしょう。