何か忘れてしまっていることを思い出そうとしている時に、「ああ、これは知っている」という感覚(feeling of knowing, FOK)が前頭葉の回路によって作り出されることがある。このFOKと創造性の過程は深く結びついている。

想起できない記憶課題の中には、「ああ、これは知っているのに」というものと(例:麻生さんの前の首相は誰だったか?)、「これは最初から知らない」というもの(アインシュタインの一般相対論の右辺の宇宙項を書きなさい)というものがあって、FOKはそれを区別する。

FOKが成立しているのに想起できない時に、私たちはもどかしさを感じる。いわゆるど忘れ(舌の上まで出ているのに、tip of the tongue, TOT)の現象である。FOKが成立し、TOTが起こっている状態は、脳が猛然と想起を欲している。

FOK、TOTの下で、もどかしさがあり、ある時ふと思い出すと、「ああ、そうだった」という安心感、満足感があって、フラストレーションが解消される。このような一連の想起のプロセスを眺めると、それは創造性のプロセスと通じている。

「創造することは思い出すことに似ている」と書いたのはロジャー・ペンローズである。FOK, TOTのような感覚と、それを支える想起の脳内過程は、創造のプロセスと完全に一致するわけではないが、多くの共通因子を抱える。

「創造することは思い出すことに似ている」。プラトンならば、この命題をイデアの概念を用いて説明することだろう。創造することは、イデアを思い出すことである。イデアの概念を持ち出さなくても、創造は想起にとても似ている。 

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